実用的な機構へのヒント                    Top Page


実用的な基本機構のヒント集です。



スプリング・クラッチ

 図1


スプリング・クラッチは、電磁クラッチより小さなスペースに組み込むことができ、低コスト化が可能。 給紙機構のクラッチなどに適している。

クラッチ・スプリングの自由内径は、入力ハブと出力ハブのスリーブ外径よりやや小さく形成されている。このため、トリガアームが開放された状態では、入力ハブの回転力は、クラッチスプリングを締め上げる効果を発生し、出力ハブに回転力を伝達することになる。
トリガアームが閉じると、入力ハブの回転力は、クラッチスプリングの爪部分から出力ハブ側に向かって、クラッチスプリングの緩みを発生させることになる。このため、クラッチは切り離された状態になる。

出力ハブ側に、切り込みが1箇所あるカムを装着し、トリガ・アームがカムに落ちて制御板の回転を止める機構にすると、1回転クラッチになる。

クラッチスプリングの巻き方向でクラッチの回転方向が決まる。クラッチスプリングの線材は、角型断面材を用いる。
低トルクの場合は、ハブと制御板は、POMなどの材質を使うが、高耐久化するのであれば、SK焼入れ、または窒化処理。

  下の写真は角型スプリング線材(0.8×0.8mm)を使ったクラッチスプリング




ストップ機構

 図2



図2は上下位置のストップ機構。荷重側を上に振って、ロックを外すと上下位置をスライドして異なる高さに設定することができる。
噛み合うディテントではなく、摩擦を利用するとフリーな位置決めできる。




二重エキセン機構

図3


図3はストローク幅の調整が可能な二重エキセン機構。
偏心機構は、回転運動を往復運動へ変換したり、位置の微調整のためによく使われる機構であるが、振り幅が変更できない弱点がある。上図は振り幅を変更できる二重エキセン機構。

エキセン軸1に対するエキセン軸2の止め位置を変えることで、ドライブ・リンクのストロークを変更することができる。




粗調整/微調整位置決め機構

図4


図4は、固定する位置の粗調整と微調整の双方が可能な機構。
位置決め軸に対して、近い位置に粗調整ネジを、遠い側に微調整ネジを配置する。粗調整ネジで概略位置決めをした後、微調整ネジで位置決めされる軸の位置を精密に出すことができる。決定後は固定ネジを締める。

完全に固定する必要がない場合は、固定ネジの替わりに押しスプリングを使う。




カセット着脱機構

図5


図5は、カセットなどの簡易着脱機構。
軸の端部をDカットし、これに固定板バネのエッジを圧接させて差し込む。固定板バネがクサビ効果により、カセットをしっかり固定することができる。カセットを外す時は、固定板バネのタブの部分を持って引き出す。

固定板バネの替わりに、撓まない板部材を使い、別のスプリング部材で軸のDカット面をキャッチしてもよい。




クサビによる組立て

図6


クサビ(ホゾ)は古来から用いられてきた信頼性の高い組立て法であるが、現代においては殆ど用いられなくなってしまった。
しかし、その性質上、組立て後の位置精度がネジなどに比べて格段に高く、緩みに対する耐久性能も高い。高度な性能が要求される次世代の製品に、再び採用されても良い技術の一つと考えられる。



マグネットによるディテント機構


図7


図7は、マグネットを使った、非接触型の位置決め(ディテント)機構。
クリック感を出すための接触式ディテント機構は、寿命の点で問題があるが、マグネットを使うことで高い信頼性が得られる。
上はローターとステーターの歯で磁気回路を作った例。ネオジムなどの強力なマグネットを使うと小型化できる。
ローターとステーターの歯数を変え、バーニアの原理を利用することで、より細かい角度のディテントも可能である。



ワンウェイ減速機構

図8


図8はワンウェイ・クラッチを使った減速機構。多段ギヤを使用することなく、シンプルな機構で大きな減速比を得ることができる。
エキセン軸を回転駆動するとアームA1→アームA2のリンク機構により、ワンウェイ・クラッチAが微小角度毎に揺動回転する。
同様に、アームB1→アームB2のリンク機構もワンウェイ・クラッチBを微小角度毎に揺動回転する。
二つのワンウェイ・クラッチの共通軸を、ほぼ連続的に減速回転させることができる。
エキセン離心率、およびアーム長さ比を変えることにより、減速比を変えることができる。



リフト機構

図9


図9は、スクリュー軸を使ったリフト機構。
大きな荷重を上下する場合は、歯付きベルトに替わって、チェーン+減速器が使われるケースが多いが、スクリュー軸を使うと、狭い空間に収めることができ、減速器も不要となる。
ネジ切りされたスクリュー軸に、移動ナットを入れ、モーターで左右のプーリーを回転させることで荷重を上下させる。スラスト軸受けは、荷重に耐えられるものを使用する。
この機構の大掛かりな仕掛けは、ミサイル発射台などにも使われているという。


ギヤ・クラッチ

図10


図10は、ギヤを使ったクラッチ。クラッチ・ギヤを入力ギヤ側に噛み合わせることでクラッチを繋ぐ。
ギヤの圧力角に対し、入力ギヤと出力ギヤのギヤ間ピッチとクラッチ・ギヤの歯数を適度に選択すると、比較的弱いソレノイドおよび復帰スプリングで十分制御でき、信頼性も高いものとなる。
ONトリガ側にソレノイドを使い、出力側に脱出カムを組み込んで、1回転クラッチとすることもできる。
低速〜中速向き



摩擦クラッチ


図11


図11は、摩擦を利用したクラッチ。
駆動ディスクをフェルトを介して駆動されるドラム側面にバネで圧接して回転駆動する。高速動作を可能とするためには、負荷側の慣性質量を軽減し、トリガアームとディテントカムは耐久性のある材質を使用する。
若干のシリコンオイルを使うことで、高密度フェルトの耐久性は十分得られる。
機構はシンプルであるが、800回/分以上の動作にも追従できる。



動力アンプ

図12


図1のスプリングクラッチを発展させることで、回転力を増幅する動力アンプ機構が実現できる。
電気の増幅回路は、微弱な入力信号を大きな出力信号へと電力増幅する機能を持っているが、この動力アンプ機構は小さな回転力を大きな回転力に増幅する機能を持っている。

動力軸は、動力反転歯車によって動力歯車Aと動力歯車Bを、図のように、互いに反対方向に回転駆動する。

クラッチスプリングA、Bは互いに、まき方向が逆であり、端部の爪A1,B1が制御歯車A,Bの溝に嵌め込んであり、反対側の爪A2,B2は出力歯車A,Bに嵌めこ込まれている。(図12B参照)

図12B


このクラッチスプリングは、制御歯車がフリーな状態であれば、動力歯車と出力歯車を連結するように作用するが、入力歯車が静止した状態では、クラッチスプリングAもクラッチスプリングBも共に、スリップした状態になり、出力歯車A,Bは停止した状態になる。

ここで入力軸を、入力側から見て時計方向に回転させたとすると、制御歯車Bは反時計方向に回転する結果、クラッチスプリングBは緩み方向に回転するのみであるが、一方、制御歯車Aも反時計方向に回転するため、クラッチスプリングAは締め付けられて、動力歯車Aの回転を出力歯車Aのハブに伝達することになる。結果、出力軸は、入力軸と同じ回転運動をすることになるが、回転トルクは動力軸のアシストを受けるため、トルクは増幅されたものになる。

この機構は、人間の操作力を増幅したり、小さな制御モーターで大きな負荷を駆動する等の利用方法がある。



icドライブ機構1

図13


図13は、icドライブ機構
大きな減速比を得る機構としてはハーモニックドライブが知られているが、特殊な製法が要求されている。
一方、旧来から知られている遊星減速ギヤは、内歯ギヤの加工が困難であり、減速比も大きく取れない欠点があった。
このicドライブ機構は、特殊加工を必要とせず、大きな減速比が得られる点、および、同軸構造のため多段重ねが可能という特徴がある。

3組の副ギヤは、ベースにマウントされ、主ギヤによって回転駆動される。
副ギヤの軸端は偏心したエキセンピボットになっており、3組のエキセンピボットは偏心角が等しい位置関係に組み立てられる。
この、3本のエキセンピボットは、運動リングに設けられた穴に嵌め込まれているため、各エキセンピボットが偏心寸法分の半径で小円の軌跡を描いて運動すると、運動リング全体も、歳差運動のような動きとなる。
この運動リングの外周が最も外側に振れた部分は、出力環の内壁に圧接する関係にあるため、副ギヤが1回転する時、圧接箇所も1周分回転移動する。
ところで、運動リングの外周長は出力環の内周長より若干短いため、副ギヤが1回転する間に、この周長差分だけ出力環を回転させることになる。
運動リング-出力環間の結合を強くするためは、弾性材質を用いたり、V溝状の表面形状を用いることもできる。あるいは永久磁石を利用することもできる。



icドライブ機構

図14


図14は、ラチェットを使ったicドライブ機構。
基本原理は前出のドライブ機構と同じであるが、運動リングの動きはラチェットの爪で出力ギヤ内歯を順次送ることで、出力軸を回転させる。回転方向は一方向のみとなる。
例図のicドライブ機構の減速比は1/150。 2段重ねでは1/22500となる。



モアレセンサー

図15



図16


干渉模様(モアレ)を利用すると、センサーの検出位置精度を高めることができる。
図15の左図は一周を100分割した回転盤の光学パターン、右図は99分割した固定盤の光学パターン。
パターンをガラス面に蒸着し、2枚の盤を接近させると図16のようなモアレ模様が現れる。

図16の中央の図に対し、左図は回転盤を0.9°左回転した図、右図は回転盤を0.9°右回転した図である。回転盤を0.9°だけ回転していないにも係わらず、モアレ模様は90°回転していることがわかる。

センサーAとセンサーBは回転軸に対し90°に位置する透過型センサー。
100分割の回転盤を1回転すると、センサーには100発のクロックが検出される。
回転方向はA信号とB信号の位相で検出することができる。

なお、絶対角を検出する場合は別にもうひとつホームポジションセンサーを設ける。
光学パターンの分割数を多くすることで、検出精度を向上させることができる。


干渉作用】 干渉作用はモアレセンサーだけでなく、広範囲の利用価値がある。繰り返しの性質のある現象であれば、機械力学、光学、電磁気学、量子力学を問わず応用できる。

ノギスやマイクロメーターはパターンのずれを拡大。
ラジオのスーパーヘテロダイン方式は、受信周波数と一定の差の信号を発振させ、二つの信号をミックス干渉させることで、一定の周波数に変換してしまい、この周波数だけをフィルターで取り出して増幅することで、高い感度と周波数分離性能を両立。
マイケルソン・モーリーの装置は、光の干渉により地球の絶対速度を検出。
光ジャイロは航空機に積まれ、正確な姿勢制御に役立てられている。  等々












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