LTspice で受信回路                                   Top Page

LTspiceは増幅回路や発振回路だけでなく、受信機をシュミレートすることもできます。
ここでは各種方式の受信機を研究してみます。



ゲルマニウムラジオ
青:同調回路(A)の電圧  緑:出力電圧(out)


コンデンサとコイルを並列接続した回路は同調回路と呼ばれ、特有の回路動作が発生します。

上のコンデンサーC5の上側に+45mV充電されている状態から考えるとします。この電圧はコイルL8の上から下に向かって電流を流し始めますが、C5両端の電圧が0Vになった時が最大電流に達します。しかし、流れている電流は急には停止できません。コイルL8のインダクタンスの働きで、流れ続けようとし、今度はコンデンサC5を逆側に充電し始めます。つまりC5の下側の極が今度は+に充電されて、上側の電極が-45mVになるまで充電してゆきます。そして次のサイクルはまた逆向きの電流が同調回路を流れるといったぐあいです。
あたかも、コンデンサはエネルギーを電圧で蓄積するバネのような働き、コイルはエネルギーを電流として蓄える錘のような働きがあるため、バネに付けた錘のように一定周期で回路の電圧と電流が交互に振動する共振現象が起こります。

アンテナにはあらゆる電波信号が雑音のように入ってくるのですが、同調周波数の信号はより大きく共振し、それ以外の周波数の信号は減衰されることになります。これが「同調」と呼ばれる回路の動作です。

上の回路では固定容量のコンデンサを使っていますが、実際には可変容量型のバリコン(ポリバリコン)を使い受信周波数をチューニングします。コイルは棒状のコアに巻いたバーアンテナを使うと高感度になりますが、空芯コイルやスパイダーコイルを自作することもできます。

同調回路の次のダイオードと抵抗、コンデンサは検波回路と呼ばれ、同様回路の高周波信号を音声信号に変換する働きを持っています。高周波信号は600kHzとか1200kHzのような高い周波数の交流(上図の青)で、プラスとマイナス側交互に流れているので、ダイオードを使って、片側だけに流れる信号にしてしまいます。そして、ここの乗っている高い周波数成分をコンデンサで均して、人間に聞こえる成分だけにしてしまいます。抵抗は充電される高周波成分だけを放電する働きを持ちます。

ところで、弱い電波を受信するためには、順方向電圧の低いダイオードが必要です。順方向電圧は、少なくともそれ以上の電圧をダイオードに加えないと電流が流れださない電圧です。
一般的に、シリコンダイオードの順方向電圧は0.6〜0.7V、ショットキーダイオードは0.3〜0.4V、ゲルマニウムダイオードで約0.2Vと言われていますが、小さな電流ではこの値はもっと低くなっています。
弱い電波を受信するにはゲルマニウムダイオードが適しているのですが、最近は入手が困難なようなので一般的にはこの回路例のようにショットキーダイオードを使います。

なお、上の回路の電波信号は、LTspiceのmodulateから出力されるAM信号を使っています。
AM信号(搬送波:周波数700kHz 振幅50mV /変調波:周波数5kHz 振幅40mV ) を同調回路に入れ、これをショットキーダイオードで整流し、R2とC4のフィルターで音声信号を取り出しています、



注】同調回路の共振周波数とQ
同調回路の共振周波数は
 f=1/(2π√(LC))
ですが、メインのLC以外に他のLやCの成分が入ると共振周波数は異なってきます。

同調回路が鋭く共振する状態をQが高いといいます。つまり、Qが高い共振回路ほど高感度ということができます。
Qは  (コイルとコンデンサに蓄積されるエネルギー) / (抵抗で消費されるエネルギー ) に比例し、式であらわすと、
 Q=1/(2πfCR) = (√(L/C)) (1/R)
となります。
式の上ではQを高くすることは簡単そうですが、Lを大きくするとRも大きくなるため簡単ではありません。抵抗も単純抵抗ではなく、高周波における表皮効果などもあるため厄介です。コイルの直径を大きくしたり巻き方を工夫したり、鉱石ラジオやゲルマニウムラジオの研究では各種の方法が提案されています。

下は同調回路にホワイトノイズを入れた時の周波数特性を調べたものです。
上はコイルの抵抗成分が0.5Ω、 下は100Ω の周波数特性図です。抵抗が低いと共振のピークが立ち、Qは大きくなりますが、抵抗が大きくなると共振は弱くなりQは下がります。





なお、下は同調回路の電流と電圧の波形です。抵抗値が低い場合、電流と電圧の位相差は90°になり、電流が0になった時に電圧は最大値に振れ、電圧が0の時に最大電流が流れています。






高周波1段増幅受信機
青:FETのドレイン電圧(A) 緑:出力電圧(out)


前例のゲルマニウムラジオの出力はP-Pで10mV程度の出力しか得られませんでしたが、上の回路はFETを使って高周波信号を増幅しています。大きな出力を得るため負荷は抵抗ではなくチョークコイルL1を使っています。
この結果、P-Pで約80mV の出力が得られています。
しかし、高周波増幅をすると周波数分離性能は劣化して異なった周波数の放送と混信しやすくなってしうため、2段、3段とむやみに増幅することはできません。

なお、この回路の同調回路のLは内部抵抗50Ωとしています。同調回路に直接負荷を接続する場合はある程度損失がないと波形の歪みが大きくなってきます。
この回路ではドレイン電流は1.3mA程度となっています。ドレイン電流を低く抑える場合はR1を大きな抵抗にしますが、増幅率を下げないためには並列に大きな容量のパスコンを入れます。

なお、D1は逆方向の高周波電流を逃がすためのダイオードで、これが無いとC3は充電される一方になってしまうため、うまく音声信号を取り出すことができません。




再生式受信機
青:Q1コレクタ電圧(A)  緑:出力電圧(out)


レフレックス(再生)式ラジオは、受信した信号の一部を入力信号へ返すことにより、増幅率を増大させる方式のラジオです。
上の回路ではトランジスタQ1のコレクタ信号を正帰還でL3に戻しています(コイルの巻き方向に注意)。

K1はL1とL2のコイル結合定数、K2はL1とL3のコイル結合定数で、ここでは0.5としています。コイル間を接近させると値は大きくなります。

下の図は正帰還ループを切った場合の回路動作です。
コレクタのP-P電圧は「再生有り」場合は約80mVあったのですが、1.5mV程度に落ちてしまっています。50倍以上も増幅されていることがわかります。



ただし、帰還を深く掛け過ぎると発振したり、周波数分離特性が劣化してしまうため、R2をボリュームにして調整します




再生式受信機 (2)
青:Q1コレクタ電圧(A)  緑:出力電圧(out)


上は再生の帰還をエミッタに掛ける方式です。帰還コイルの巻き数も少し多くしてあるため出力は大きくなっています。前例は帰還量を調整するボリュームがありましが、この方式では無いためL3の巻き数やL1との距離(回路上ではK2の値)で調整する必要があります。




超再生式受信機



赤:クエンチング信号(A)  青:コレクタ電圧(B)  緑:出力電圧(out)


再生式受信機の正帰還を強くかけた状態にしておくと、やがてハウリング現象を起してしまいます。
ハウリングは瞬間的に発生するのではなく、徐々に大きくなっていくため、ハウリングになる前に動作を停止してしまえばよいことになります。これが超再生方式の受信機の原理です。

上例の回路の下側部分はクエンチング発振回路と呼ばれ、ここでは24kHzで発振させています。この周波数は低すぎると人間の聴覚に差し障りがあり、高すぎると再生動作が働かないため十分な性能を得ることができません。この回路では電圧を上げてトランジスタを飽和させることで発振を止めています。

青波形がトランジスタのコレクタ電圧です。A付近は信号の高周波信号成分が大きい部分、B付近は小さい部分です。
バイアスはVR2、帰還量はVR1で調整します。

実際の超再生式受信機の調整もコツが必要ですが、LTspiceにとっては不安があるところです。しかし頭部に高周波が乗っている三角波形は一応超再生ラジオの特徴とされているので、それなりに再現されているようです。

超再生方式を使うと音質は落ちますが受信感度を極度に高めることができるため、微弱な電波の遠距離受信などに使われているようです。




スーパーヘテロダイン受信機



スーパーヘテロダイン方式は、1918年、エドウィン・アームストロング(米国)により考案された回路で、もっとも優れた受信回路方式といわれています。ちなみに、アームストロングは再生式や超再生式、更に後述のFM変調方式の発明者でもあります

真空管の高周波回路において、プレートとグリッド間の容量結合により発振してしまうなどの問題を避けるために、彼は出力側の周波数を入力信号の周波数と変えてしまう方法を着想しました。入力周波数と異なる周波数の発振回路(局部発振回路)を組み込み、二つの周波数を混合することでその周波数の差分の"うなり"を作り出し、変更された周波数を出力側で増幅するようにしたのです。こうすれば、出力信号が入力側に回り込んで発振してしまう危険を下げることができます。

下の図は、周波数が異なる信号(赤50Hzと青60Hz)を混合して差の周波数(緑10Hz)のうなりを発生させている例です。波の山と山が一致した時、波は加算され、山と谷が一致すると打ち消されて、1秒間に10回のうなり周期が生み出されています。




スーパーヘテロダイン式のもう一つのアイデアは、受信周波数が変わっても、同調周波数と局発振周波数の差を常に一定にする方法です。これは2連バリコンを使うことで実現されました。受信周波数が700kHzの時は局発周波数は1155kHz、受信周波数が900kHzの時は局発は1355kHzのように、常に二つの周波数の差が455kHzのような一定周波数になるような仕組みです。この新しい周波数は中間周波数(IF)と呼ばれます。

中間周波数は、受信周波数が変わっても常に一定周波数ですから、信号が外部に回りこまないよう、シールドされた専用の固定周波数の共振回路で増幅することができます。共振回路を複数段にすることで、同調周波数は鋭くなり、近接した周波数からの混信を避ける力も増大します。

真空管回路に限らず、以上の原理は半導体回路でもまったく同じで、現在ではほとんどの高性能受信機はスーパーヘテロダイン方式が使われています。

実際のスーパーへテロダイン回路用の2連バリコン、バーアンテナ、局発コイルや中間周波トランスは市販されていますから、これを使って回路を作ることも不可能ではありませんが、周波数発振器とシグナルトレーサー(高周波電圧計)のような測定器ががないと正確に調整することは困難かもしれません。

なお、LTspiceでスーパーへテロダイン回路を構成するのも容易ではなく、ここに紹介する受信回路も限定的な性能しか得られていませんが、一応それらしい動作をしています。




上は局部発振回路付近の説明です。同調回路の共振周波数は700kHzで、これがトランジスタQ1のベースに入ってきますが、一方、局発コイルL1+L2と2連バリコンのC1の共振信号がC3からエミッタに加わります。L3は帰還発振を促すコイルです。
このため局発コイルのセンタータップ(B)にはFFTで示すように700kHzに重なって、局部発振の1155kHzが現れます

ここにおける局部発振はやや微妙で、主同調回路の受信信号が無い時は局部発振も停止して、主信号が入った時にのみ局発が誘発される程度の働きが要求されます。自発的に強い発振をしてしまうと主信号が埋れてしまうため、LTspiceではL2の内部抵抗を10Ωに設定してあります。局発と主信号のミックス具合はC3の容量も重要なようです。

局発コイルや中間周波トランスの下の「K1 L1 L2 0.9」のような表記は、L1とL2の相互インダクタンスによるコイル結合係数で、1未満の数値にします。結合が強すぎると互いのコイル信号に引き摺られて、共振がうまくできなくなったり、結合が弱すぎると信号がコイル間を渡っていかなかったりしますので、サジ加減が要求されます。

細かいことを言えば、コイルの設定で Inductance(インダクタンス) は当然として、次に重要な Series Resistance(直列抵抗値) くらいは設定するにしても、Peak Current(最大電流)、 Parallel Resistance(並列抵抗値)、 Parallel Capacitance(並列容量)などは通常設定しませんが、深く追求すれば微妙に重要なのかもしれません。




上図において、初段のトランジスタQ1の出力(矢印位置の信号)のFFTを見ると、主信号700kHzに中間周波数455kHzがミックスされていることがわかります。





上は中間周波増幅トランジスタQ2のコレクタ信号です。FFTを見ると、中間周波 455kHzの信号が前段より増幅されていることが分かります。




実際の受信機では中間周波増幅を2〜3段かけている場合が多いようですがLTspiceでは困難なので、ここでは上図のようにFETで増幅してから整流しています。
   参考サイト:http://www.cmplx.cse.nagoya-u.ac.jp/~furuhashi/education/Radio_note/chap16.pdf




【スーパーヘテロダイン受信機の内部】


上の写真は、古いタイプのラジオですから個別の部品形状がよくわかります。現在のモデルはICが使われていますからトランジスタなどはIC化されています。しかし、バリコンとバーアンテナを始め、中間周波トランスや局発コイル、バリコンなどの形状は基本的には変わっていないはずです。

写真のような小型バリコンは、固定側の扇形の複数枚電極と、回転させる側の複数枚の電極間が接触しないように、薄いフィルムで絶縁された構造になっています。こうした小型バリコンはポリバリコンとも呼ばれています。
昔から使われている大型バリコンは電極が空中に露出しています。

中間周波トランスや局発コイルの周波数は、頭部のネジ式コアを回して、コアをコイルに抜き差しすることで微調整します。

現在はあまり見ることはなくなってしまいましたが、同調回路のコンデンサは固定容量を使い、コイルのコアを出し入れして同調周波数を変更するタイプの受信機も使われていました。



FM受信機
FM信号は振幅で変調するAM信号と異なり、下のように信号の強度は一定です。この図ではわかりませんが、周波数を変動させて変調しているのがFM方式の信号です。



FFTでみると、今回使う信号は85.2MHzを中心に下図のように頂上がフラットな周波数帯域を持っています。





フォスター・シーレー検波



信号源には 85.2MHを中心に、周波数変調するLTspiceのmodulateを使っています。
この検波回路は高周波を単純に全波整流しているだけです。
同調回路は共振周波数に一致した時が最も大きな振幅になり、共振周波数から外れると小さくなります。下図は共振回路L1に発生する電圧で、確かに振幅が変動しています。



この±どちら側へも流れる高周波電流をコンデンサC2に流してやれば、高周波は打ち消し合ってキャンセルされるため、音声信号の2000Hzの信号だけが残ってoutに出力されています。



レシオ検波



受信周波数より低めの同調周波数回路と、高めの同調周波数回路からの出力を逆向きに接続すると、この二つの周波数の中に入った周波数において、安定した振幅の出力が得られるため、フォスター・シーレー検波より広い範囲で動作ができるのがレシオ検波の特徴とされています。
上図はFM中間周波数の10.7MHz検波回路。実際の回路調整も難しいようですが、LTspiceを使っての分析も楽ではなく、納得できるような動作はなかなかしてくれません。あくまで参考です。




以上の二つの方式は何れも古くから使われている方式ですが、使うダイオードの特性が揃っていなければならないなど、調整が困難なので、現在はPLL方式などが多く使われています。

PLLは、 FM 入力信号と VCO(電圧で発振周波数が制御できる回路) の周波数が常に位相比較されていて、その比較結果が LPF(ローパスフィルタ) を経て VCO に帰還されます。この結果、VCO の周波数は FM 入力の中心周波数に吸い込まれるように一致して、位相差はなくなります。
この状態で、入力信号の周波数が高い方に変動すると検波出力は+側、低い方に変動すると-側に振れるような検波出力が出されます。VCOは入力の中心周波数に追従するように働くため、安定した受信をすることができます。
また、PLL回路はIC化されていますので、調整も容易になっています。










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