基板CADの使い方


PCBは、Printed Circuit Board の名に示すように、印刷技術を使って、銅の回路パターンを絶縁板の上に形成する方法です。別ページに掲載したユニバーサル基板も試作回路作りには便利ですが、基板CADを使って、プリントパターンを作り、基板を自分で作ることもできます。



主なPCB関連用語
基板CADを使ったり、基板を製作したりする際には、ある程度関連する用語を知っておいたほうが便利です。以下はPCBに関する基礎用語です。

基板材料

  紙をエポキシ樹脂で固めた「紙エポ」、ガラス布をエポキシ樹脂で固めた「ガラエポ」が代表的
  標準的な板厚は1.6mm、他に1.2、1.0、0.8mmなど
  銅箔厚みは 18μ または 35μが標準

片面基板、両面基板、多層基板

  一面だけ銅箔を使う片面基板に対し、裏表に銅箔を使うのが両面基板、
  何層かの基板を貼り合わせて作るのが多層基板。4層基板の場合は通常、電源とグランドを内層に当てる
  殆んどの回路は両面基板で実現可能。多層基板はトラブルの際に原因追跡が困難。
  電磁シールド性は多層基板より装置と基板全体を遮蔽し接地する方が有効。

部品面、半田面
  部品を取り付けるPCBの面が部品面、その反対面が半田面。

ランド
  部品をハンダ付けする基板の穴周辺のパターン部分 ROUND

レジスト
  エッチング後のパターン間にハンダがブリッジしないように保護する緑色の塗膜

シルク
  部品記号やピン番を白文字で基板面にシルク印刷する。
  絹の網に、インクが染み出る場所と染み出さない模様を作り、ヘラやローラーで印刷していたことに由来。

スルーホール
  基板内部を貫通して裏表のパターンを導通させる穴。穴の内面にメッキ層を作る、または別部材を挿入

メタルマスク:
  ハンダ粒子とペースト混ぜたクリームハンダでパターンの上に形成するハンダ層
  表面実装部品の端子との溶着や、電流容量の増大のため使用する

表面実装
  リード線のない表面実装型の部品を基板表面に溶着して実装する方法

自動実装
  量産基板ではPCB上に各部品が自動的にマウント、ハンダ付けされる。
  フロー式ハンダは、溶けたハンダの噴流で盛り上がった部分に基板を通しハンダ付けする。
  リフロー式はクリームハンダ(練りハンダ)を使い、熱風炉でハンダ付けされる。





基板CAD

基板用パターン生成CADとしてはmbeが無償で提供されています。回路図CADのBSch3vと同じく水魚堂岡田氏の作品です。自動配線機能はありませんがシンプルで優れたCADです。

このCADは、試作用のパターンを作図するだけでなく、基板製造業者への出図に使われるガーバーデータを生成したり、回路接続検査用のネットリストも生成することができます。

mbeは同マニュアルの中に細かい使い方が書かれているので詳しくはそちらを見て頂くのが良いのですが、ここでは、補足的にこのCADの使い方を解説します。

(※自動配線機能を持つフリーなCADも出ているようですが、間違いなく回路を接続するという点では無論申し分ないのでしょうが、引き回し方や線幅の優先順位までは自動判断できないため、悲しいことに、掻きたいところが掻けないことが間々あるようです。)



  基板CAD mbeの使い方


レイヤーの使い方



mbeの作業は、各レイヤ(層)に必要な要素を書き込むことが主な作業となりますが、他のCADと違い、mbeのレイヤはそれぞれが半田面とか、部品面とか、専用の役割りがあります。
各レイヤには記号が割り当てられています。

 SOL: 半田面のパターンをここに作図します。
 CMP: 両面基板の場合、部品面のパターンをここに作図します。
 PTH: 両面基板の場合、全層を貫通して導通するスルーホールを作図します。
      付随するハンダ面と部品面の穴パターンも自動的に作図されます。
 DRL: 穴あけドリルのパターンです。
 DIM: 基板の外形線を描きます。
 レジスト: レジスト塗膜を禁止する部分のパターンです。
 シルク: 基板に印刷する文字や記号です。
 メタルマスク: クリームハンダを盛る部分のパターンです。
 内層は、4層基板にだけ使います。

最も簡単な片面基板の配線パターンを作る場合でも、SOLレイヤだけは必要になりますので覚えておきましょう。




レイヤにパターンを描くためのツール


これらのツールを使ってパターンを描いていきます。
例えば、ラインツールをクリックして、次にSOLの目のマークの右側の空白をクリックすると、鉛筆マークが表示されて、半田面に配線ラインを書き込むことができるようになります(上図の”書き込み中のレイヤ”を参照)

半田面に線を描くのではなく、部品面にパターンを描く場合はCMPの目のマークの横をクリックして鉛筆を表示させます。

なお、目のマークは、現在表示されているレイヤです。表示を消す場合は、目のマークをクリックして消します。

ツールを使って書き込みできるレイヤの目のマークの右側の欄は明るく表示されます。暗い欄は書き込みできません。使うツールによって、使えるレイヤは異なります。

パッドは四角、円、長円などの端子を描くツール
スルーホールは、全層を導通させる導通穴、
ホールは穴、
アークは円弧、
テキストは基板に表示する文字です。

ツールを指定してからそのパターンを画面の必要な位置に配置するのですが、線の太さや形などの詳細は、右クリックで指定画面を呼び出すことができます。例えば下はPadを位置決めする前に右クリックした時に表示される画面です。Padの幅、高さ、長丸/角の選択などができます。

Width 幅、Height 高さ、OBROUND 長丸、RECTANGLEは長方形です。






ラインを引く

配線を引き回すラインツールは最も頻繁に使われるツールです。
線の始点をクリックし、終点でクリックしますが、終点を決定する前にShiftキーを押すかCtrlキーを押すと、水平、垂直、±45°の組み合わせで配線が引かれます。
下の 左はShift/Ctrlキーを使わない例、中はShiftキー、右はCtrlキーを使った例。



両面基板の場合は、部品面は縦線、ハンダ面は横線を多く使うような使い分けが一般的です。



パターンの幅と間隔
下のデータは簡易的なパターン幅と導体間のギャップ寸法です。

電源、GNDの主線:3mm以上
電源、GNDの支線:1mm以上
最小パターン幅:0.127mm
電流とパターン幅: 1A/1mm (目安)

電圧と最小ギャップ:
  V         mm
 0-9       0.127
 10-30      0.254
 31-50      0.381
 51-150     0.508
 151-300    0.762
 301-500    1.524




選択
(Selector)の使い方




ある図形を操作 (移動、削除、変形などの各種操作) するためには先ずその図形要素を選択する必要があります。矢印マークのSelectorをクリックしてから図形を選択していきます。
選択されると図形は白い色に変わります。

選択する方法は3つあり、
 1)その図形を左クリックする。
 2)複数の図形を左ボタンを押しながら囲んでボタンを放す。
 3)Ctrlキーを押しながら複数の図形を左クリックで拾ってゆく
なお、選択を元に戻すにはEscキーを押すか、図形の無い箇所をクリックします。




作図画面



作図パターンは、黒い画面枠の左下隅の白い十字が基準位置になります。
ICなどは、複数の穴とパッドと部品記号から構成されますが、この作画基準の場所で先ず作図してから、全体をグループ化(Componenting)した後に、必要な位置まで移動して配置します。
普通のCADとはこのあたりもちょっと違うので要注意です。



グリッドの大きさは Set → Grid → Set grid pitch で指定できます。
mm系のグリッドではなく、インチ系のグリッドに切り換える場合は、 Set → Grid → Set origin で新基準位置を設定してから  Set → Grid → set grid pitch で新しいピッチ 1.27 のような値を指定します。
Reset origin は設定をリセットします。






パターンを部品化して使う

下の例は、14ピンのDIPパターン全体を一つの部品化する例です。

配置したスルーホールを矢印ツールのSelectorを使って、



順にクリックして選択状態にしてから、右クリックでPropertyを呼び出してPin number 1~14を振ります。
この振番は絶対条件ではありませんが、配線する上で間違いを防止するためと、netリストを作る上で重要です。振られたピン番号は見難いのですが下図のように、表示されます。



次に、Selectorを使って、部品化する範囲全体を囲んで選択状態ししてから Edit → Conponenting すると、下のようにNUMBER が現れ、全体が部品になります。



この状態で、どこか一つのピンを選択すると、全体がselectされることが確認できますから、任意の作図位置へ部品を移動して配置することができます。

selectした部品をedit → copy し、別位置で edit → past することもできます。
再配置した部品のNUMBERを変えるには、選択して右クリックでpropertyを記入します。

上の例はスルーホールを使いましたが、片面基板の場合はpadとholeを使って部品化します。
無論、他の要素を一緒にselectして部品化することもできます。





作った部品をライブラリに書き込む

作った部品をライブラリに書き込んでおけば、それを後から呼び出して使うことが簡単にできます。
ライブラリ用のフォルダを準備しておくと便利です。下の例ではエクスプローラで"LIB"を作っておきました。

作った部品をselectします。
右クリックでpropertyでnameを付け、更に
File → Save as  でライブラリフォルダを指定します。
ファイル名、例えば "DIP_pat" を入力し,保存します。







ライブラリの部品を使う

デフォルト後、コンポーネントツールは下のように色が薄く、使えない状態になっています。




Set → Library → Add で、ライブラリを指定するとコンポーネントが使えるようになります。




ライブラリの中には複数の部品を追加してゆくことができます。





ライブラリのコンポーネントを使う

コンポーネントツールをクリックします(コンポーネントツールが薄い色になっていて使えない状態の時は前の章のように Set →Library → Add でセットします)

コンポーネントを配置する位置でクリックすると下のようにセットされているライブラリが表示させるので、選びます。



使うコンポーネントをえらんで、それを配置します。

なお、このAdd情報は自動的に更新されるものではないようなので、設定環境が変わった際は改めてRemove(削除)とAdd(追加)をする必要があるようです。





ポリゴンでベタグランドを作る

mbeの特殊機能として、面積の広いベタグランドを作ることができます。
エッチング液の消費を抑える効果もありますが、グランドを大きく取って耐ノイズ性を高めたり、放熱性を利用する場合もあります。

下の例はコンポーネント部品と単独のパッドを配置し、
ポリゴン(多角形)ツールをクリックして、ベタグランドの範囲4箇所をクリックし、最後の点をダブルクリックしてから、接続マーク(白い十字マーク)をselectで囲んで、接続ポイントまで引き摺った状態です。




View → Polygon frame mode にすると、接続点でベタグランドに接続されます。



上の図ではわかりにくいのですが、こんな出来上がりです。



上の例で、接続されたピンを見ると、確かにグランドには繫がっていますが、接続ピン周囲の銅パターンはくり抜かれたようになっています。これはハンダ付けや、ハンダを外す際に、加えた熱が周囲のパターンに奪われるのを防止するパターンで、サーマルリリーフと呼ばれています。




サーマルリリーフを禁止する方法

サーマルリリーフ穴にしたくないピンは以下のようにします。

下の例の縦に6個並んだスルーホールは部品化してない個別のスルーホールです。
上2個と4~5番目のピンを放熱したい場合は、これらのピンを接続してから、



ポリゴンで範囲を囲み、接続ポイントを囲って引き摺って放熱するピンに重ねます。



View → Polygon frame mode をすると



このように、ピンがサーマルリリーフ無しで接続されます。
なお、この作業は、同じ板面(ハンダ面か部品面)でおこないます。



ところで、部品化されたピンは必ずサーマルリリーフ穴になってしまいますが、これを避けるには、下図のように、部品化に際して、各穴の属性設定画面で inhibit generating a thermal relief にチェックを入れておくと放熱性のよいベタ穴を作ることができます。







コネクションチェック Connection check



このツールで回路の接続をチェックします。
接続回路がハイライトで表示されます。



測定 Measure



最初にマウスで指定した位置から次の位置までのXY座標の差と距離を表示します。





プリント

できたパターンを印刷するには、 File → Setup page で印刷位置などを整え
Print preview で確認し、
Print します。

大切なことは、実際の寸法で出力されるかどうかです。スケールを当てて確認してみましょう。左右や上下の余白の設定によって実寸法ではなくなる可能性もあります。






プリント基板の自作

実用性を考えれば片面基板に留めたほうがよいでしょう。なるべくハンダ面で回路を構成し、どうしても回路を引けないところには、ジャンパー線を部品として部品面に使います。抵抗器と同じ長さに統一すると同じ曲げ治具が使えます。

レーザープリンタを使う方法

感光基板を使わず、普通の片面基板にパターンを焼き付けて基板を作る方法があります。
用意するのは、

① 片面生基板 (秋月など)

② レーザープリンタ
  コンビニにもレーザープリンタがありますが、持参した用紙を通すと障害が発生する
  危険性があります。ブラザーのレーザープリンタが1万円以下で販売されています。

③ アイロン

④ 以下の重量比で配合したエッチング液 (何れもドラッグストアで購入可)
  オキシドール クエン酸   塩
     25   :   4   :  1
 オキシドールは傷の消毒用としてボトルで、
 クエン酸は汚れ落とし用として粉末で売られています。
 目安で配合する場合は、エッチングに必用な量のオキシドールに、
 小スプーンでクエン酸4杯、塩1杯の割合で徐々に溶かし込み、これ以上溶けない
 飽和濃度の溶液を作ります。

 なお、自分で配合するのではなく、銅版画のエッチング液をネットから
 購入することもできます(500mL 350~400円程度)。サンハヤトのエッチング液
 より安価です。

⑤ 除光液 (アセトン)
  基板表面洗浄、トナーふき取り用

⑥ その他
  スチールウール (基板表面を磨くため)
  マニュキア (パターンの剥がれ補修用、100均の品)
  セロテープ

手順

なるべく黒レベルを濃くして、裏表を反転させたパターンを平滑な紙(表面がツルツルした新聞の折り込み広告など)にプリントアウトします。

基板の縁から15mm程の大きさで紙を切り抜きます。

必用な大きさにカットした生基板の表面をアセトンできれいに洗浄します。

プリントされた紙の面を基板の表面に向かい合わせて密着させ、基板を包み込むようにして角々を折り込み、裏からセロテープを使って、紙と基板がずれないように固定します。

平らな木の板の上に滑り防止のための手ぬぐいなどの薄い布を敷き、ここに基板を置きます。
アイロンを高温にして基板に張った紙が焦げない程度になるべく強い圧力でゆっくりアイロン掛けします。
こうすると、プリントされたインクのトナーが溶けて基板の表面に転写されます。

紙に包まれた基板をぬるま湯の中に暫く浸けて、紙をそっと剥がします。残った紙の繊維も取り除きます。

パターンが部分的に欠けてしまった場合はマニュキアで補修します。

プラスチックのトレイまたは冷凍保存バッグにエッチング液を入れ、基板を入れ、ゆっくり揺らしながらエッチングします。パターンの無い部分の銅が完全に無くなったらエッチングを終了し、水洗い、乾燥します。

除光液で基板面のトナーをふき取り、スチールウールで銅パターンを磨きます。

パターンの銅の酸化を防止するためフラックスを塗布してから薄くハンダメッキします。
(サンハヤトのコーティング材を使うともっと簡単です)

ドリルで穴開けしたら完成です。


エッチング液と廃液処理

エッチング後は銅イオンが含まれるため、下水などに流すことはできません。
一般的な廃液処理法としては、廃液に十分な量の消石灰[Ca(OH)2](ホームセンターや園芸店で購入可)を加えて水酸化銅[Cu(OH)2]に変化させた後、紙などに吸収して乾燥後、燃えるゴミとして処理できます。燃えた後にできる酸化銅[CuO]は塗料や顔料にも用いられる物質で毒性はありません。




   





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