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  ライン生産とセル生産


この、サイトは「技術開発力」となっていますから、設計寄りの内容が多くなってしまうのですが、実は組立を含む、製造方式の問題は、設計と両輪の関係にある重大な問題なのです。

ただ、開発設計室は多数のPCとプロッターが並ぶオフィスと、雑然とした試作工作室というイメージを持つように、組立て工場といえば、殆どの人はベルトコンベアのある製造ラインを思い浮かべるに違いありません。

コンベア・ラインはチャールズ・チャップリンが警鐘と皮肉をもって描いた哀しいラインでもあるのですが、今ではここに、組立てロボットが入り込み、人間は彼等の隣で、哀しい立場を表に出さず、明るく振舞う人のみが求められている時代でもあるようです。



ベルトコンベアを設備できない工場
さて、ここでは、中小零細の側に立つが故、ロボットやコンベアさえ持てない工場に関し考えてみることにします。ただし、自動機で材料を単純加工する工場ではなく、装置アッセンブリを行う工場です。

設計者はPCの前で黙々と働いていれば、何をしているかあまり判らないのですが、工場の方はそうはいきません。何しろ、誰が見ても、そこで行われている作業は目に見えてしまうからです。従って、厄介なことは、工場での作業方法は、より権力が強く、より声の大きな人間に左右されてしまうことです。

声が大きな人間の大多数(全部と言ってはいません)は、より多くの人員が、一斉に並んで作業するする姿を好む傾向があるようです。軍隊組織のように、徹底した作業分担のもと、全社一丸となって作業する姿が古今東西好まれるようです。

こうした環境の工場では、作業台をずらりと並べ、コンベアの代わりに人間が、自動的に動くような仕組みになっています。次に組み立てる部品を、床に置かれたダンボール箱の新聞紙の中を掻き分けて、ようやく探し出し、作業台を渡りあるくように組立てて回ります。
途中で社内呼び出しの放送が掛かると、作業を中断しますから、後から回っている別の組立て担当者が、先行してしまうこともあります。もちろん作業内容は変なものになりますが、何もしないでいる訳にはいきません。

さて、1ヶ月半で仕上げるべき台数は、平均6人がかりで、120台ですが、作業台には34台しか並ばなかったので、組立て途中の装置を、通路脇の床に一旦下ろし、次の34台を作業台に持ち上げて作業継続です。

こうして、5日程過ぎて、かなりの部品が取り付けられた頃、次の部品を取り付けようとしましたが、先に組立てられていた部品の穴が図面より少し小さくできていたため、組み立たないことがわかりました。先月のロットでは良かったのに、どうしてだと、外注さんの社長を呼びつけましたが、謝るばかりでラチがあきません。あんな会社は切ってしまえということに、また、なったようです。

不良部品を取り外すために、かなり出来上がっていた製品を、もう一度バラすのですが、半バラシ状態で、床に置いたり、上げたりたり、1日半がムダになった頃、手直し部品が徹夜で上がってきました。でもその時は、まだよかったのです。その後、4回も別なバラしをして、Eリングが2個と小さなネジ3本が床の隅にひっそりと残りました。

このままでは納期に間に合わないと、鶴の一声で、営業から二人を呼びつけたのが、更に傷を深めたことは当然の帰結です。


ところで、そもそも何故、うちの会社、組立て工場なんか持ったの? ここの工場団地は、ボロボロと抜け落ちた歯のようで、最初に出て行った工場はシンセンとかいうとこへ、プレスと金型一式持ってったらしい。 最近出て行ったハーネス屋さんはタイだかミャンマーだか判んないけど、そっちらしい。うちは、ナンカ、先々代が都内で板金を始め、30何年か前、ここに移ってきたらしいけど、最終製品を組まねーと部品の良し悪しさえ判んネーじゃねえか、ってことだったらしい。確かにそれから20年近くはどんどん広がったけど、こう回りが出ていっちゃうと、頼むとこ、どんどん遠くなるし、、それに、、いくらいいもの作るっていったって、値段じゃ勝負できないし。先月、78歳の職人さんもついに辞めて、、どーも上手くないよナー。

けど、工場持ってない、街のあっち側の例の会社は、もっとひどいらしいヨ。図面引くだけで、後は全部外に任せて、営業は売りにも出ないで、先代が築いたお客さんのリプレース・コール待ちゃってるらしい。金かかるからと図面屋さんも追い出して、これで楽になったって言ってたけど、ひどくなってしまったって、アチコチで言われてるらしいヨ、ナンカわかんないけど、、

何故、組立て工場なのでしょう? それは、製品をユーザーが使う最終形にして、かつユーザーからの苦情が直接窓口に入る仕組みにすることが、品質を高め、市場の信頼を得る唯一の方法だからです。例え、部品自体は100%、外で加工してもらっても、その品質まで背負って製品を作り上げなければ、良いものなど到底できないからです。決して、組立て作業の時間単価が良いからではないのです。

無論、部品メーカーで優れた実績を続ける会社は少なくありませんが、こういった会社は、商品を「部品」とは考えず、「製品」と考えているに違いありません。小さくても商標を打ってあるのは、それが製品だからです。


さて、3年後、この悪循環を避ける、唯一の方法は、声が大きい一人を交代させることだと気が付いたまでは良かったのですが、次の責任者は、より広い工場と、部品検査専用要員をかかえたので、業績は必ずしも好転しなかったのです。

駄目になる前に、試す方法が提案されました。と、いうより、そうするしかなかったのです。それは、工場を売り払って、替わりに、日中留守になる営業マンの個人机も廃止し、共通テープルにする。できたスペースに、二つのコの字型ラックを組み、中央に回転止めできるターンテーブル組み立て台を置きました。椅子は普段使いません。コの字部分はセルと呼ぶそうです。今日明日組む部品だけを、ほぼ組立て順にラックに入れます。

組立て作業員は二人に削減されました。スペースが無いことを理由に、部品工場へは、週に2回来て、組立で減った量だけ、補充するという、越中富山薬売り式を頼みました。ネジ、細かい電子パーツなど一部だけ、工場に在庫して、使う分だけセルに入れます。納品は、部品番号を貼ったラックに直接入れてもらいます。床置きと、手間と屑になる包装は禁止され、繰り返し使えるプラ段仕切り箱です。

最初、組立ては、ハンダ、カシメ、部分ユニットの予備組立てを一人がセルで行い、隣のセルで本体組立てを行いました。本体組立ては、最終動作確認後、セルの中で梱包まで実施します。

最初は慣れず、不良部品も出たので、最初の1台が完成するのに丸3日もかかってしまったのですが、次の1台は2日ででき、5台目からは、1日2台、月末には1日4台完成できるようになったようです。もちろん2人の間で、作業分担は話し合い、より効率的な作業方式が工夫され、時々担当作業の入れ替えもできるようになり、今では、二人とも、最初から最後まで平行してできるようになったようです。 ひとりが休暇をとっても、組立てが止まることはありません。

考えてみると、納品間近になって、最初に組み込んだ部品が悪いとわかって、工場中の全部の半製品をバラしていたのは何の為だったのでしょう?


この製造方式はセル生産と呼ばれる方式で、実は日本で生まれた方式です。フォードが始めたライン方式とは全く別の方式です。生産ラインの無い生産工場です。

セル生産方式の最大の弱点は、ひどく面倒な点です。決められた通りにすれば出来るって訳じゃなく、一から考えていかないとうまくいかないのです。ハンダコテを取る時コードが引っ掛かる、ネジ箱ひっくりかえした、下のラックの部品をかがんで取るのが苦労、、、まあ、こういった様々なちょっとしたことを、 気にならない人は、最初から不適任です。 気が付いても文句しか言えない人も適していません。 そういった面倒なことは、誰か専門家にカネ払ってやってもらえばいいと考える人間は、有害な存在でしかありません。

しかし、日本の資源である、大量の油田が24億年前、枯渇してから、時は久しく、安いモノ作りの力では、負ける一方。カンガエルことなんて、できねーヨ、なのでしょうか? (無論、枯渇したのは油田なんかではありません)

残念ながら、セル方式は、自分で考えることが不得意な人間には合っていません。号令と誰のセキニンだ、が好きな会社にも不適です。

ところで、先ほど、生産方式を切り替えた会社、最近、カイゼンと呼ばれるムダな全体会議はやめにしたようです。義務化してしまった定例会議からは、変革もアイデアも出てこなかったからです。


製造する方式だけが問題なのではなく、問題だったのは、考えようとしなかったことなのです。部品が出来てきたら、取り合えず並べて組み立てる、という方式は誰だって思いつく方法ですが、問題はその弱点を分析しようとしなかったことなのです。確かにたった一つの部品だったら、今日初めての助っ人にさえ出来そうです。だから、取り合えず頭数を揃えて、後から気付いたヘマは、また総出で手直しを繰り返していると、目の前の忙しさに満足してしまい、失敗の原因は必ず自分以外の処に消えてしまうのです。

だから、セル方式にさえすれば問題は解決する、というのは間違いです。ただ、考える努力を放棄していない人にとっては、こういった環境の方が、直接的に失敗と成果を出しやすいものなのです。

そして、先々代が言っていたことは、実は今でも真実です。こんなことしていては儲からないと、繰り返しの単純作業を止めたまでは良かったのですが、作り方を考え直すのではなく、安易にも、どんどん工賃の安い遠隔の地に仕事を放り出し、そして自分たちは、金さえ手にすればいいのだと、猫と杓子で信じてしまったところに、過ちの出発点があったのです。そして、今もなお突き進んでいるのです。




追記:セル方式を実施している現場の写真を載せたいのですが、あいにく手元にありませんので、、スミマセン
 優れた設計図面も面白いのですが、優れた組立て現場はその比ではありません!






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