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         半導体モデル


トランジスタなど半導体の動作原理は、各種サイトで解説されていますが、バンド理論、フェルミ準位、伝導帯などによって説明されているため、分かり難さを感じる初心者も多いようです。

このページでは、半導体をメカニカルなモデルを使って、別の角度から考えてみたいと思います。無論、メカニカルなモデルと、電子モデルとは、本来別ものであり、特に半導体には、正と負のキャリアがありますが、これを、機械に置き換えて説明することには無理があります。
にも係わらず、そこには、物理的に共通する動作原理があることも事実であり、半導体を異なった視点から見ることも、無駄ではないはずです。そして、半導体の可能性を、もう一度考える機会になるかもしれません。


導体、絶縁体、真空管
銅や銀、アルミニウム、錫、鉄などの「金属」は、電気を良く通す、金属光沢がある、伸展性がある、熱を良く伝える、などの共通性質がありますが、その性質は、金属の中の電子(自由電子)が、金属原子に束縛されずに、自由に動き回れる状態にあることから来ているようです。優れた導体である金を、厚さ0.1μまで打ち伸ばすことができるのは、職人の腕にもよるのですが、自由電子の働きが無いと不可能なのかも知れません。電気を通さない絶縁体の原子には、この自由に動き回れる自由電子が無く、電子は隣接する原子間で共有された状態(共有結合)にあるためと考えられています。

導体間に電圧を掛け、回路を閉じると電流が流れますが、回路を接続して電流をONするか、切断してOFFするかの、何れかの制御しかできません。

真空にした電球内に、電流を通した白熱フィラメントと電極板(プレート)を封じ込め、プレートに+、フィラメントに-電圧を掛けると、プレートからフィラメントに電流が流れ、逆方向に電圧を掛けても電流は流れないことを発見したのは、あの有名なエジソンです。熱せられたフィラメントからは、マイナスを帯びた電子が飛び出していたのです (電流と電子の流れが逆というのは、今となっては訂正できない取り決め事)。 まもなく、フィラメントとプレートの中間に網(グリッド)を仕込み、これにマイナス電圧を掛けると、フィラメントからプレートに向かう電子の量を制御する効果があることが分かりました。「真空管 Vacuum tube」の誕生です。

真空管は、世界に電子の世紀を呼び込みました。無線、ラジオ放送が世界の隅々を結びつけ、最初の電子計算機ENIACも真空管で作られることになりました。
ただ、真空管には、小型化するのが困難、発熱、消費電力が大きい、フィラメントが切れ易い、、などの弱点があったのです。サブミニチュア管のように鉛筆程の太さの真空管や、旧ソ連の超音速戦闘機に搭載されていた真空管の例もあるようですが、、


半導体
真空管に替わる固体素子(トランジスタ)を発明したのは、ショックレーを中心としたベル研究所です。導体でも絶縁体でもない、半分導体の性質を持った、ゲルマニウムやシリコンといった半導体を使って、電子の流れを制御できることを明らかにしたのです。

ところで、純粋な半導体は、その名が示すように、電気がある程度しか流れない材質なのですが、この中途半端な性質にこそ、限りない可能性が秘められていたのです。半導体を熱したり、光を当てたりするだけで、電気の通じ易さが変化するのです。

例えば、金属板の表面に半導体層を塗った板に、暗い場所で、放電針を使って静電気を帯電させます。暗い場所では半導体はあまり電気を通じませんから、静電気は表面に貯まったままになります。そこで、フィルム越しに画像を短時間露光するのです。
すると、光が当たった場所の半導体は電気が通じるようになり、裏の金属層に静電気を放電してしまうのです。
現像は簡単です。色の付いたパウダーを、感光板に振りかけて、そっと息を吹きかけると、静電気が残っている場所にはパウダーが残り、光が当たった場所のパウダーは落ち去ってしまうため、後は、浮き出てきた画像を紙面に転写するだけでいいのです(細かく言えば、この後、圧力や熱で像を定着しないといけませんが)。これが、いわゆる、電子写真式複写機。最近の高速プリンターはフィルム露光ではなく、レーザービームを使って露光していますが基本原理は同じです。

ところで、半導体は、そこに、僅かの混ぜ物を入れることでも劇的に電気的性質が変わってくるのです。
ゲルマニウムやシリコンなどの半導体は、原子の最外殻に4個(4価)の電子があります。ここに、ヒ素などの5価の原子の不純物を少し混ぜると、半導体は電子が過剰気味になり、マイナス(ネガティブ:N)を帯び易い半導体になります。そして、余剰電子を介して、電気が流れ易くなるのです。これをN型半導体と言います。
逆に、ホウ素など3価の不純物を混ぜると、電子が抜け落ちた穴(正孔)ができるため、プラス(ポジティブ:P)を帯び易い半導体となり、やはり、正孔の働ききで電流が流れ易くなるのです。それぞれ、N型、P型と呼ばれる半導体です。

【注】 半導体(semiconductor)は、シリコン、ゲルマニウム、セレンだけでなく、酸化亜鉛、ガリウム砒素、硫化カドミウムなどの化合物、更には有機物にも多数の半導体が見出されています。
また、方鉛鉱、黄鉄鉱、黄銅鉱なども完全な導体ではなく、これに金属針を接触すると、一方からの電流が流れ易くなることから、初期のラジオ受信器の検波器に用いられていました。



半導体を水のモデルで考える
ここでは、電子を水に例えて説明してみます。
N型半導体は、水に濡れ易い、例えばティッシュの表面のような親水性のある表面とします。
P型半導体は、水を弾く性質のある疎水表面、例えばサトイモの葉のような表面を考えてみます。


図1) N型半導体とP型半導体


親水表面に水を垂らすと、上図左のように水は表面にしがみ付くように、盛り上がった状態になります。
一方、疎水面に水を垂らすと、水は表面から浮き上がって、コロコロと転がるような状態になります。


接合型ダイオード

図2


親水素材と、疎水素材を接合して、やや傾けた面に、水を端から供給するとどんなことが起きるでしょうか?
図2上は親水素材方向から、疎水方向へ傾けた説明図です。水は親水素材の端の疎水素材との境界に溜まった状態になり、流れて行きません。
一方図2下は、疎水面の水は玉のように転がり、親水素材に吸い取られるため、滞ることなく水流が流れます。
接合ダイオードにも似たような現象が起こり、電流は1方向にのみ流れ易くなります。



接合型トランジスタ

図3

接合型トランジスタは 親水性-疎水性-親水性  の3層構造を持つメカニズムで説明されます。
左の給水パイプ側をE、右の排水パイプ側をC、中央上からの給水パイプから水が落ちる部分をBとします。
図3上は、E-C間には水流が流せません。EのB寄りには水が溜まった状態になっています。

下図で、B部に1滴水を落とすと、これが呼び水となって、境界部に溜まっていた水が、どっとCまで流れます。トランジスタのベース層は極めて薄いことが要求されますが、上のメカもB帯の幅が狭くないと、呼び水現象は起き難くなってしまします。

Bから落とした呼び水の100倍の水が流せる時、増幅率は100です。Bからの水が無くなると、疎水部で水流が途切れてしまうことになります。



点接触型トランジスタ

図4

 図4は、点接触型トランジスタのモデル図です。
点接触型のトランジスタはベル研究所で最初に開発されたトランジスタです。ベースBは不純物が少ない半導体(たぶんN型のゲルマニウム?)が使われました。
 上図では、注いだ水が拡散しにくいザラ付いた表面で描いています。金属に電子を注入しても、注入する先から拡散してしまいますが、半導体は注入された付近に電子が蓄積する性質があります。

水(電子)を注入する先細のパイプEと、注入された水を吸い上げる先細パイプCを、互いに接近させてベースに接触させています。Eから水がBの上に注水されない時は、いくら出力ポンプを回しても、出力からは水が出てきません。しかし、入力ポンプを回してEからベースに水を注ぐと、その水をCの出力ポンプが吸い上げて、強い圧力で出力することができるのです。
水流の量は、給水量以上にはならず、むしろベース周辺にこぼれた分が減りますが、出力水圧はポンプで大きくすることができます。
 なお、上図で、ベースにエミッタだけを接触させた機構を想定してみてください。エミッタ側からベースに水を注水すると、水は点接触部付近に蓄積してしまい、注水することが困難になってしまいます。逆にベース下方全体から滲んでくる水はエミッタに接触したスポイトで吸い上げることはできます。
これが、点接触型ダイオードです。ベル研究所の担当者は、点接触型ダイオードにもう一本の針を当てて、電流を流す実験中に、偶然に点接触型トランジスタに繋がる現象を発見したのです。

Baseは台、 Emitterは放出器、Collectorは回収器の意味ですが、トランジスタの電極には、発明当初の機能が命名されていることがわかります。


MOSFETの水モデル

図5


MOSFETは、P型あるいはN型のみの導通を使ったトランジスタです。
原理はバイポーラより簡単で、ゲートGに電圧を掛けて、キャリアを導通チャンネル部に呼び寄せます。ゲートに掛けるのは水圧(電圧)のみで、水流(電流)はいりません。ゴム膜を押して水を呼び込み、ソース-ドレイン間に水を流すのです。

MOSFETは、チャンネルを大型化して大電力を扱う一方、他方では、基本構造がシンプルなため、小型化により集積密度を上げることが比較的容易であったため、CPUなどのLSIに用いられるようにもなりました。



   鉱石トランジスタの実験

 鉱石ラジオに使われた方鉛鉱を使って、「鉱石トランジスタ」はできるでしょうか? 以下はその実験です。


方鉛鉱に針を立てて実験したところ、鉱石から針側には電流が流れ易く、逆方向へは流れにくいことがわかりました。使用した方鉛鉱はP型半導体の性質を持っているようです。

従って、回路はNPNトランジスタと見立てて、ベル研究所がしたようにベース接地回路を採用してみます(下図)



出力側の (BAT2、RL、電流計)は、アナログテスターのΩ(×10)レンジをそのまま利用します。

入力側は、5V電源と電流制限抵抗150Ωです。

下のように、ホルダー(B)で方鉛鉱を挟み、2本の針を立ててエミッタ(E)とコレクタ(C)としています。



下の写真は、ベース電流が流れていない場合。抵抗値は650Ω




次の写真は、ベース電流を流した状態。抵抗値は500Ωに減少。コレクタ電流が増加したことがわかる。




Ibを流すと、Icが減少するのは分かりますが、若干でもIcが増加するということはトランジスタの性質を示したものと思われます。

ベル研究所では、方鉛鉱ではなくゲルマニウムを使ったためもっと、この現象が顕著だったと考えられます。実験の詳細は定かではありませんが、点接触ダイオードの実験中に、もう一本針を立てて実験する最中に、エミッタ側の電池のようにコレクタ側の電池も順方向に接続して実験すべきところ、助手が誤って電池を逆向きに接続したことに気付かないまま、変だということで、エミッタ側の接続を入れたり切ったりしているうちに、コレクタ側の電流値が変化していることから、その現象をショックレーに報告したのではないかと推測されます。

 この現象が、エミッタ電流によるコレクタ電流のスイッチ動作であることを見抜いたのはさすがショックレーです。ややもすると結晶に共通して電流が流れるのだから、コレクタ側の電流値が影響を受けても当然と、見過ごしてしまう可能性の方が高いはずです。

今ではトランジスターといえば増幅素子と考えてしまいますが、上の実験では増幅という働きは見えてきません。 ショックレー自身もそうで、彼はエミッタに流す電流をコレクタが吸い上げるスイッチする素子と考えていたようです。ベース接地回路の電流増幅率は1以下なので、当然増幅ではなかったのです。しかし、コレクタ電圧を高くすれば、それだけで電力増幅になるではないかと真空管回路技術者は即気が付いたことでしょう。

さて、この点接触型鉱石トランジスタ。エミッタ接地回路を試したのですが、思ったような動作はできません。キャリアをエミッタからベースへ注入して、これをコレクタが吸い上げるというメカニズムはかろうじて可能でも、ベースを薄い層で作った接合型と同じ動作はやはり困難なようです。

なお、NHK技研の内田秀雄氏は、この現象をベル研究所より早く発見していたと言われていますが、公式発表がされなかったため、ノーベル賞には至らなかったようです。ベル研ではショックレー始め複数の研究者が寄ってたかってこの新事実を追求したのと、そんなこと何かの間違いだよで済ませてしまったNHK研の違いが出てしまったのでしょう。残念ながら、、






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