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美しいメカニズム  MECHANISMS
    - リンクと機械制御 -

古代ギリシャに始まった力学の発達は、ローマ、ルネッサンス期を経て、やがて18世紀後半の産業革命に至り、機械・機構技術は大きく開花することになりました。長い時間を掛けて発達して来た、これら、優れたメカニズムには、時代を超えた美しさがあります。モーターによるダイレクト・ドライブが主流となった現代においても、忘れてはならない、魅力的な機構を取り上げてみます。

なお、図示したメカニズムの多くは代表例であり、無数の発展形や応用例があるはずです。このため、例図における幾何的、力学的な条件等は示していません。ほとんどの場合においては比較的容易な解析で、条件下における最適解が求められるはずですが、摩擦力に頼るロック機構などにおいては、材質や潤滑条件で結果が大きく変わってきますので注意が必要です。





リンクとワンウェイクラッチによる変速機構

図1


図1は、出力軸の回転速度をコントロールすることが可能な駆動機構。
入力軸の回転をエキセンドライブでストローク運動に変換するが、速度コントロールリンクの支点位置を適度な位置に設定すると出力側のメインリンク関節はほぼ停止した状態にできる。
速度コントロールリンクの支点位置を移動させると、右図のように出力軸はメインリンクの運動により首振り運動を開始する。この運動はワンウェイクラッチにより出力軸を一方方向へ回転させることになる。

なお、この機構の速度コントロールリンクを省略した簡易減速機構は、多段ギヤによる減速機構に替わるシンプルな減速増力機構として使われている。



球駆動による変速機

図2


図2は球とディスクの接触圧を利用した変速機。傾斜軸の角度を変えることで変速比を変えることができる。



コーン・メカニズム(1)

図3


図3は、コーン機構を利用した変速機(グラハム・ドライブ)。
3組(図示は1組のみ)のコーンは、横移動可能なリングの内面に圧接している。
入力軸を回転させると、リングの拘束により、コーンは遊星運動をし、遊星ギヤを介して出力軸を回転させる。
リング位置をシフトすることで、出力回転速度を変えることができる。



コーン・メカニズム(2)

図4


図4は、ベルトとユニバーサルジョイントを使ったコーン・メカニズムによる変速機構。
コーンをローラーで受けることで、ベルト位置をシフトしてもベルト長が一定に保たれる。
コーン・メカニズムは、この他にも、ユニバーサルジョイントを使用しない方式、ローラーで駆動力を伝達する方式などがある。



ゼネバ機構

図5


図5は有名なゼネバ機構。
ニードルベアリングを組み込んだ駆動輪の1回転により、分割ホイールは60°間歇回転する。
4〜8分割が可能。



倍角機構

図6


図6は、入力角度を増幅する倍角機構。
下の軸の下方にスプリングフックを設け、ピンを引っ張ることで、出力アームは180°のディテント動作となる。



D-ドライブ

図7


図7はD―ドライブ機構。
入力リンクを回転すると、出力リンクの先端はD型の運動軌跡となる。フィルムのコマ送りに使用された。

右図はリンク機構の説明。入力リンクが円運動で、出力リンク先端が直線の場合、出力リンク中点付近は楕円状の運動軌跡となるが、部分的に見れば円弧に近似している。従って、適度な出力リンクの中点を3点選び、接円を求めると、姿勢制御リンクの支点位置Pとリンク長が求められる。


Robertsのリンク

図8


E点は部分直線運動となる。


Tchebicheffのリンク

図9


E点は部分直線運動となる。




◆Watt のリンク

図10


図10のリンクは、支点運動のリンクだけで、部分直線運動が得られる。



Evans のリンク

図11


エバンスのリンクは長い直線ストロークが得られる。 寸法 r は同一である。



マストの無いリフト

図12



フォークリフトには、通常、荷物を昇降するためのマストとチェーンが使われているが、図12のフォークリフトはマストもチェーンも無い。
リンクと支点だけで構成されるシンプルなリフト機構は油圧により、荷をほぼ垂直に上げ下げすることができる。



平行リンク-ドリル

図13


図13は多軸ドリルの駆動機構。
1本の入力軸の駆動が、偏芯プレートとクランクにより複数の出力軸を回転する。



8節リンク

図14


図14は8節リンクによる上下ストローク機構。


パレットによる回転駆動

図15


パレットを使った機構は時計のエスケープメント(脱進)機構が有名だが、図15の機構はパレット自体で回転力を発生する。
ソレノイドと組み合わせてカウンターの字輪駆動に用いられる。



バックラッシュ防止

図16


図16はネジのバックラッシュを防止する機構。




3段バネ定数

図17


図17のバネは、圧縮に際して、3段階にバネ定数が変化する。
引っ張りスプリングによる機構の場合は、ガイド軸は不要で、バネ内部または、隣接位置に鎖様の伸長リミッターを用いる。




コイルスプリングによる位置決め
図18


図18はシャフト外径より、やや小さな巻き内径のコイルスプリングを使った、ローラーのスラスト位置決め機構。
ローラーをスラスト方向に、一定以上の力を加えると、スプリングは内部で圧縮されて外径が拡大するため、ローラーを移動することができる。



トルクリミッター

図19


図20は、一定の過負荷でギヤを空転させるトルクリミッター。
コーンの角度を変更することでも限度トルクを変えることができる。



遊星ギヤ・クラッチ

図20


図20は、遊星ギヤを使ったクラッチ・
制御アームを図が位置にある時は、内歯は歯車は固定されるため、駆動ギヤの回転と共に遊星キャリアも回転させられるが、制御アームを外すと、遊星キャリアはフリーになり駆動力を失う。



平行テーブル

図21


図21は8節リンクによる平行テーブル機構



◆タイプライター

図22


図22 タイプライターは殆ど使われることの無くなった装置ではあるが、優れた機構をみることができる。
少ないキーのストロークで、活字に高速度を与え、慣性で打撃する機構が採用された。
異なったキー位置から同一印字位置へのアームとリンクバーによる伝達機構も優れている。



CALDAN 機構

図23


上はカルダン・メカニズムによるストローク転換機構
Fを内歯車、Rを遊星歯車で構成したものは CALDAN GEAR と呼ばる。P点を回転駆動することもできる。



調整ロック機構

図24


図24は、取り付け位置を調整可能な調整ロック機構2題。


HOOKEのジョイント

図24


ユニバーサル・カプラとして最も普及しているHOOKEのジョイントの最大角度は約36°
この機構は、回転速度の変動を生じるが、入力軸に平行な出力軸にもう一組のカプラを設け、フォーク角度を等しくすると等速回転に戻すことができる。



ユニバーサル・ジョイント

各種ユニバーサルジョイントの例



左から シングル型、ダブル型、コイル型、フレキシブル型、樹脂型
コイル型の変形として、コイルスプリング型および逆巻二重コイルスプリング型がある。


下は等速ジョイントの構造、FF車のドライブ軸の左右各2組に使われ、ステアリングとサスペンションの関節として働き、エンジンの駆動力を前輪に伝達している。
インナーレースの内側にはスプライン溝、外側はボール溝がついた球状
アウターレースはカップ状で、内面の溝がボールと咬み合う
筒状のボールケージの穴がボールを位置決めしている




カプラー

図25


このカプラは、ごく接近した距離で回転中心をオフセットできる。



オバーラン機構1

図25


図25はオーバーラン機構。ワンウェイ・クラッチとしても使われる。
矢印の方向へは回転するが、逆方向はロックする。



オバーラン機構2

図26


上図はオーバーラン機構としてより、ワンウェイ・クラッチとして知られる機構。ボール(ニードル)がクサビとして作用する。



◆ トルクリミッター

図26


図19とは異なったタイプの、ボールを使ったトルクリミッター。


リムとスポーク

図27


自転車には美しい機構が詰まっている。上図はリムとスポーク。
下面から、ほぼ一点に掛かる荷重は、上方のリムに分散され、しかも引っ張り荷重に変換されるため、車輪重量に比して高い剛性が保たれる。
上図は6本組と呼ばれる組み方(海外名 3 cross ) 。荷重だけでなく、加減速の大きな力にも耐える。

図28

ところで、何故倒れないで自転車に乗れるかは諸説あるようだ。有名なのは前輪を支えるフォークの曲がり。ハンドルが前方を向いた状態で車体重心が最も低くなる。体重がハンドルを安定させることになる。フォークはまた、操舵回転軸とタイヤ接地点を近づけることで、楽にハンドルが切れる効果も与えてくれる。

もう一つが、車体傾斜に伴うハンドルの重心振れ。ハンドルやフォークなどの重量がハンドル回転軸より前方にあるため、例えば上図で車体を進行方向右側に倒し加減にすると、ハンドルも右に倒れてくる。自転車が前進している時は、このハンドルの振れは、右方向へ車体を旋回させることになる。

つまり車体が倒れ込む側にハンドルが振れて、自動的に倒れ側に進路が旋回し、倒れを防ぐ動きが発生する。この効果はサドルの部分に手を添えて、自転車を押してみると、ハンドルを持たずともバランスを取りながら押して行けることでわかる。

なお、この重心振れによる倒れ防止効果は、ドロップハンドルのように、ハンドル重量がより前方に寄っている構造の方が、ハンドルバーが手前に曲がっている実用車より強い。走行する際、実用車がふらついているのはこの辺に理由があるかもしれない。

しかし、自転車の安定性が高過ぎると、逆に乗りにくくなり、機敏な障害物の回避操作が困難となってしまい、やはり実用的ではなくなってしまうらしい。用途によって、程度は違うが、適度な安定性と適度な不安定性が不可欠らしい。

世界中の自転車に係わる人々の、膨大な試行錯誤が、自転車と人間の関係を、より完成度の高いものへと推し進めてきたに違いない。自転車は移動手段として、エネルギー効率が極めて高いばかりでなく、美を兼ね備えている機械装置でもある。



トグル2題

図29


左のトグルは一般的なトグルであるが、右はスナップ効果の高いダブルトグル機構。



差動ギヤ

図30



差動ギヤは言わずと知れた有名な歯車機構。大方の自動車の後輪を駆動している機構である。
駆動ギヤDの回転はギヤCに伝わり、ギヤ枠を回転させるが、このギヤ枠の内部に取り付けられた2個のギヤは2個のギヤAとBに咬みあわされている。

AとBが夫々の車輪に接続されていて、ハンドルが直進の場合、AとBは同速度回転のまま車は前進する。この時ギヤ枠は回転しているが、枠の中の歯車は回転しない。

ハンドルを切った場合、回転方向内側のタイヤは回転が遅くなり、外側のタイヤは早く回転することが強要される。この差動ギヤ機構はこれに柔軟に追従することができる。ギヤ枠の中のギヤは、AとBの回転差分だけ回転することになる。

この差動ギヤの原理は自動車の「デフ」機構だけでなく応用範囲は広い。AとBの相対角度を制御する機構としても使用できる。



スライド運動方向転換3題

図31



スライド運動の方向を転換する機構


Space crank 1

図32


図32は回転を伝える3Dリンクのスペースクランク機構。


Space crank 2

図33



図33は、前述のスペースクランク機構の発展形である 90°定速変換スペースクランク機構。



TWINWORM GEAR

図34


図34のようなツインウォームギヤは、駆動モーター側から負荷側のギヤを回転させることはできるが、負荷側に回転力が加わってもモーターを回転させることはできず、セルフロックされる。ただし、この機構においてはモーター自体の制動力も重要な働きをしているため注意を要する。モーター軸のスラスト荷重も保護されなければならない。



時計の調速・脱進機構

図35


機械式時計の機構も見逃せない。図35は振り子時計の脱進機構。
振り子の振幅が比較的小さい場合は、振り幅に関係なく周期が一定になる原理が使われている。

(振り子支点−パレットとエスケープホイールの接触点−エスケープホイール支点)のなす角度が、やや左右非対称に作られていて、エスケープホイールの巻き戻る力が、振り子の振幅を持続させている。


図36A


図36B


腕時計は、図36のように、振り子の替わりに往復回転するテンプと呼ばれるハズミ車の慣性と、ヒゲゼンマイの弾性が利用されている。なお、耐磨耗性を高めるため、ピボット軸受けや、パレット爪などの部分にはルビーが使われている。

図36Bは部分図。剣先状の部材がカムの凹部に落ち込むと、ルビー部材(赤)がフォーク(青)に蹴飛ばされて、前例同様、テンプの回転が付勢される。


現在はクォーツ時計が主力であるが、これは圧電効果(水晶片に電圧を掛けるとゆがみ、ゆがみが戻る時に電圧を発生する)を利用して、共振を持続させている。水晶の質量と弾性を利用している点では、ある意味機械式と言えなくもない。
何れにしても、メカの魅力は捨てがたく、高価な腕時計にはメカ式が残ると言われている。



ゼロ・バックラッシュ・ギヤ

図36


ギヤのバックラッシュを抑える方式としては、負荷トルクが小さい場合はスプリングで2枚のギヤの歯を寄せる方法が取られるが、負荷が大きい場合は使用できない。図36は自動的にバックラッシュがゼロになるゼロ・バックラッシュ機構。
双方向に逆回転のワンウェイクラッチを使って、バックラッシュを締め上げるように作用する。
右はモデル図。ワンウェイクラッチはワイヤーブラシで代用している。下の駆動板を右に移動すると、左側のワンウェイクラッチは即食い付いて移動するが、右側のワンウェイクラッチは慣性により取り残され、結果バックラッシュ量は減少する。逆の移動でも同じことが発生する。



差動ネジ

図37


図37はピッチの異なる右ネジと左ネジの差動を利用した微調整送り機構。ピッチの差が小さいほど細かい送りができる。



遊星偏芯ドライブ

図37



図37は遊星ギヤの偏芯駆動を利用した減速機構。
エキセン軸が1回転すると、遊星ギヤ1は内歯ギヤ2の内側を1周するが、双方の歯数の異なっている分、ギヤ1は最初の角度と異なった角度まで回転させられることになる。その回転量は内歯ギヤ3を介して、ギヤ4に取り出されることになる。
ギヤ1の歯数をN1,内歯ギヤ2の歯数をN2とした場合、減速比は N1/(N1-N2)



ハーモニックドライブ

図38



ハーモニックドライブはフレキシブルな外歯ギヤを固定された内歯ギヤに咬みあわせて回転させることでフレキシブルギヤを減速回転させる。ボールベアリング対が1周すると内歯ギヤ歯数とフレキシブルギヤ歯数の差分だけフレキシブルギヤを駆動することができる。フレキシブルギヤをカップ状にして底面から出力を取り出すことができる。
低騒音で高効率の減速ができる。



スパン調整

図39



図39は右ネジと左ネジを使った、2軸間の距離(スパン)を微調整する機構。



パイプの密閉栓

図40



図40は、脱着可能なパイプの密閉栓機構



調速装置

図41



図41は回転の調速装置。回転の遠心力で制動力が増す。



ターンテーブル

図42



重量の大きなターンテーブルは、その重量を鋼球で受けると滑らかな回転ができる。軸端は焼き入れ処理する。
ラジアル軸受けもボールベアリングではなく、滑り軸受けの方が良い結果が得られる。



ダンパー

図43



衝突のショックを和らげるために使われるのがダンパー。ビデオデッキの扉をゆっくり開ける機構から、鉄道車両の緩衝機構まで広く使われる。
上は回転運動のダンパー
下は往復運動のダンパー。このダンパーは弁を使い、ピストンの往と復の穴径を変えることで、左右へのダンプ力を変えることができる。
シリコーンは温度による粘度変化が小さいため広く使われる。
回転式は平面ではなく風車形状にしたり、ローターとステーターを複数枚で構成することもある。



逆転防止 2題

図44  図45



上図は何れも矢印方向への回転はできるが、逆回転が不可となる機構。









参考文献 Mechanisms,Linkages, and Mechanical Contorols  Nicholas P.Chironis


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