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        歯車、チェーン、ベルト

歯車、チェーン、ベルトなど、回転動力を伝える機構は伝動機構と呼ばれ、伝える動力の大小によって各種規格が定められています。ここでは、電子機器に多く使われる伝動機構を取り上げます。


歯車(GEAR)
噛み合う歯を持った回転機構は歯車(ギヤ:Gear)と呼ばれます。隣接する回転軸に駆動力を伝えるだけでなく、歯数を変えることで、回転速度や回転力を正確に変換する機能は、歯車の持つ優れた機能であり、人類が紀元前から用いてきた伝動機構です。歯車を使った代表的な機構である機械式時計の幾つかは、その美しさをスケルトン仕様に見ることができます。

機器に使う歯車は、歯切り加工業者に加工してもらうこともできますが、少量の場合は、Misumiなどから販売されている市販品を使うことができます。
材質は、負荷が小さい場合は、ナイロン(PA66)やデルリン(POM)、小〜中負荷の場合は、アルミ合金(A5052)や、黄銅(C3602)、45Cの焼入れ材、重負荷ならニッケルクロムモリブデン鋼(NSCM439)などを使います。
モリブデン・グリスなどの潤滑材を使うことで、ギヤの磨耗を減らし、寿命を延ばすことができます。


平歯車(Spur gear): 歯が回転軸に対し平行に切られた最も一般的な歯車です。歯形はインボリュート曲線が使われます。



はす歯車(Herical gear): 歯が回転軸に対して斜めに切られた歯車です。
負荷により、軸と平行方向(スラスト方向)に力が発生するため、効率は平歯車より落ちますが、回転に伴う騒音が低減するため、写真下のように、比較的高速回転するモーター軸などに使われます。ねじれ角は10°、15°、20°、45°などがあります。ねじれ方向が右と左の2種類あり、軸を垂直に見て、歯が右上がり(写真例)になるのが右ねじれです。平行にかみ合わせる互いの歯車は、逆ねじれ方向になります。
45°同方向ねじれ角のハス歯車を組み合わせると、回転軸を90°変換できますが、スラスト力を受ける方向にスラスト軸受けが必要です。



かさ歯車(Bevel gear): 歯の形状が傘に似ているところから傘歯車と呼ばれています。
45°のかさ歯車を2個使うことで回転方向を直角に変換することができるため、自動車の差動ギヤに使われます。
ギヤ音を低減するため、かさ歯の歯を斜めに切ったかさ歯車も使われます。
なお、双方の歯数が等しいかさ歯車はマイタギヤ(Miter gears)とも呼ばれています。


内歯車(Internal gear): 歯が歯車の内側に切られている歯車です。大きなギヤ比を使う場合などに使います。


ラック(Rack)/ピニオン(Pinion): ラックは直線に沿って歯を切った部品を言います。これに噛み合う回転歯車がピニオンです。大きな歯車に噛み合う小さな歯車をピニオンという場合もあります。


ウォームギヤ(Worm gear): ネジ状に歯を切ったウォーム歯車と、これに噛み合うウォームホイールを組み合わせて使います。回転軸は直角に変換されます。1段で数十分の1まで減速が可能です。回転力はウォームギヤからウォームホイール側に伝えることはできますが、逆はできません。




歯車の用語

ピッチ円
(Dp):  歯車の基準となる円をピッチ円といい、互いの歯車のピッチ円は接します。

歯数(Z): 歯の数です。

モジュール
(m): 歯の大きさを示す数字で
  m = Dp / Z   (歯数 : Z 、ピッチ円直径 : Dp )
 です。通常用いられるモジュールは 0.3, 0.5, 0.75, 0.8, 1, 1.25, 1.5, 2, 2.5, 3
 電子機器に多く使われるモジュールは 0.5〜1.5 のようです。
 例)
  m1、Z 24 の歯車の Dp は24mm
  m1.5、Z 18 の歯車の Dp は27mm

歯先円直径(Do): 歯車の歯の先端の直径で
   Do = Dp + 2m
と決められています。歯車のピッチ円から、歯先までの寸法はモジュールの数値と同じです。

圧力角: 歯車の半径線と歯形の接線の角度を圧力角といいます。歯の傾きです。
標準歯車の圧力角は20°です。インボリュート曲線の歯車は、圧力角直線の接触点(写真下の赤点)で回転力を伝えます。



転位量: 通常のインボリュート歯形の歯車では、大きな歯車の歯先が、小さな歯車の歯元に食い込むようになってしまい、歯元の厚みが減ってしまうため、圧力角が20°の場合の最小歯数は 14枚が限界となってしまいます。これ以下の歯数では、歯切り工具を遠ざけて、歯元を太くする加工方法が必要となります。これは、歯車の転位と呼ばれています。実用となる最小歯数は10枚程度のようです。
歯切り工具を遠ざける距離が正転位量、近づけて深く切るのが負転位量です。
転位量を X・m とした時、Xを転位係数といい、切り下げの限界転位係数は
   X = 1-(Z/2)sin2A     (Aは圧力角)
となります。

バックラッシュ: 歯車と歯車を少し離してかみ合わせると、回転にあそびができます。このあそびをバックラッシュと言います。歯車が円滑に回転するためには、モジュール1で0.05mm程度のバックラッシュが必要です。


【歯切り盤】
代表的な歯切り盤であるホブ盤は、ホブと呼ばれる螺旋状の回転刃を持ち、平歯車、はす歯車、ウォーム歯車を切削加工できます。「歯切り加工」の動画はYouTubeなどで見ることができます。



ローラー・チェーン
ローラー・チェーンは離れた位置の軸へ駆動を伝達する機構として使われます。自転車のチェーンが代表的な例です。単にチェーンと呼ばれることもあります。2列のチェーンを接続したダブル・チェーンや、多列チェーンも製造されています。
チェーン用の歯車はスプロケットと呼ばれ、チェーンとチェーンを接続する部品はジョイント・リンクと呼ばれています。



チェーンは内側のリンク板と外側のリンク板がピンで接続され、一つの関節単位を1リンク(1コマ)として数えます。最も短いチェーンは、(内コマ-外コマ-内コマ) の3コマですが、両端が開放されたチェーンのコマ数は奇数になります。チェーンを環状に接続するのは、外コマの役目を持つジョイント・リンクでおこないますから、1周の長さは偶数リンクになります。
全体長が偶数リンク長ではなく、奇数リンク長にしたい場合は、「オフセット・リンク」と呼ばれる1コマが(内―外)リンクプレートになっているジョイントが使われます。

チェーン表記は次のようになります。
   RS25-1  47L + JL
これは、TSUBAKI RS型 1列チェーン、呼び25(ピッチ1/4インチ:6.35mm) 47リンク(298.45mm) + ジョイントリンク(6.35mm) です。

主なローラー・チェーンの種類(1列型 TSUBAKI)
呼び ピッチ(mm) 高さ(mm) ピン長(mm)  平均引っ張り強さ(kN) 最大許容張力(kN)
15 4.7625 4.3 6.91 2.26 0.31
25 6.35 5.05 8.3 4.71 0.64
35 9.525 7.8 12.7 11.3 2.16
40 12.7 10.4 18.2 19.1 2.63
50 15.875 13.0 22.2 31.4 6.37
60 19.05 15.6 27.6 44.1 8.83
80 25.4 20.8 35.5 78.5 14.7

ローラー・チェーンは、ベルト伝動に比べ、低速で強い張力を必要とする用途に適しています。定期的に注油を必要とし、また、磨耗による伸びが発生するため、張力の調整が必要となります。

ローラー・チェーンの特徴として、標準のチェーン以外に各種アクセサリーがあり、チェーンのリンクプレートがL字型アングル状になっていて、コンベア取り付けに適しているもの、あるいは、ホロー・チェーンと呼ばれる、ピンが中空パイプ構造になっていて、軸を通すことが出来るものなどがあります。ただし、呼び寸法が小さなチェーンにはないようです。




伝動ベルト
回転動力をベルトで伝える伝動ベルトは、チェーンに比べ、低騒音で高速回転させることが出来ます。各種ベルト方式がありますが、代表的な方式としては、平ベルト、Vベルト、歯付きベルトがあります。

平ベルト 表面が平らなベルトで、動力伝動を兼ねて物品の搬送(コンベアベルト)にも使われます。ベルト内側と外側の材質が異なっているもの、芯体に繊維が使われているもの等があります。
伝動平ベルトの特徴は、高速運転が可能、低騒音、という点です。プーリーは、フランジ立ち上げ型だけでなく、太鼓状のクラウン・プーリーが一般的に使われます(クラウン量はメーカー資料参照)。ベルトは、プーリーの周速度の大きな位置に位置に寄る、という性質を利用したものです。

 FL フレックスターベルト(三ツ星) 動力伝動用
  ベルト厚: 1.5mm
  ベルト幅: 10/15/20/25/30/35/40/50 mm
  最小プーリー径: 16mm
  最大ベルト速度: 60m/sec
  ベルト長:200/224/250/280/315/355/400/450/500/530/560/600/630/670/710/750/800
        850/900/950/1000/1060/1120/1180/1250/1320/1400
        1500/1600/1700/1800/1900/2000/2500/2800/3150/3550/4000

 HBELT(Misumi) 一般用)
  ベルト厚: 0.9mm
  ベルト幅: 5/10/15/20/25/30/35/40 (以降10毎)〜 500 mm
  材質: 表面ポリウレタン、裏面ポリエステル
  許容応力: 4kg/cm
  最小プーリー径: 25mm
  ベルト長: 指定



Vベルト
ベルト断面をV字型にして、同じV字型のプーリー溝に食い込ませて張ることで、大きな力を伝動することができます。プーリーにも複数の溝を付け、複数本のベルトを張ることもできます。小型電子機器に使われることはあまりありませんが、高速で大きな動力を伝動するのに適しています。

 標準ラップドVベルト (三ツ星) 
                       周長=サイズ×10インチ
   M型: 幅 10mm、  高さ5.5mm サイズ 11〜100
   A型: 幅 12.5mm、 高さ9mm  サイズ 13〜270
   B型: 幅 16.5mm、 高さ11mm サイズ 16〜330
   C型: 幅 22mm、  高さ14mm サイズ 30〜400



歯付きベルト
タイミン・グベルト、またはシンクロ・ベルトとも呼ばれます。ベルトとプーリーに、互いにかみあう歯を付けてあります。平ベルトやVベルトには、スリップが発生しますが、歯付きベルトを使うことで、歯車やチェーン同様、スリップをゼロにすることができ、かつ高速、低騒音運転が可能なため広く使われています。
ベルトは三ツ星、バンドー、つばき など各社で製造・販売されており、ミスミなどからも購入することができます。
プーリーも同様に購入できますが、普及している歯型は一般的な歯切り加工業者でも製造可能です。
またメーカーは、規格化された標準型プーリー以外に、棒状プーリーと呼ばれる切断されていないプーリーを供給していますので、ここから2次加工する方法もあります。

数多く使うプーリーは、歯切りするのではなく、デルリンなどで成形すると、コストダウンが可能となります。フランジは片フランジ形状とし、隣接するプーリーで交互の向きに配置するような設計にします。フランジの側面に平行ピンが収まる袋溝を成形し、反対面はEリングで止めるなど、組立てを簡易化することができます。なお、プーリー精度を上げるために、各部の肉厚が均一となるようなリブ形状にして、MXLの場合は、歯面と軸穴の抜き勾配は実質上ゼロにすることも可能です。

下図は、デルリン製モールドMXLプーリーの例です。歯面付近はヒケ発生無きよう可能な限り均一肉厚形状のこと。
 注意:歯面にPin打ち固定する右の例は、穴バリ等の突出厳禁

60MXL φ8軸φ3Pin        30MXL φ8軸Dカット抜け止め付き  20MXL φ8φ2Pin




標準的に使われている主な歯付きベルト
      ピッチ  ベルト幅(mm)  許容伝動張力(N)   ベルト長(呼び) 内訳略 
 MXL: 2.032   3.2          11           40〜569
            4.8          17
            6.4          24
            9.5          37
            12.7          52
 XL:  5.08    6.4          27           50〜900
            7.9          38
            9.5          51
            12.7         76
 :   9.525   12.7         103          109〜915
            19.1          174
            25.4          245
 H:   12.7    19.1         440          240〜1700
            25.4          620
            38.1          970
            50.8          1330
            76.2         2090

目安としては、モーター出力が20W 500rpm以下なら MXL、 50W 1500rpm 程度までなら XL が多く使われます。詳しくは各メーカーの設計資料、またはMisumiベルト選定プログラムを参照してください。

 写真下は、MXLプーリーとMXLベルト
    A型(歯面にM3加工) フランジ無し(歯面にM3加工) B型(ボスにM3加工)
             MXL 025 (6.4mm幅) ベルト


歯付きベルトの使い方

歯付きベルトは、歯車などに比べプーリー配置の自由度が高いため、下図のような引き回しもできます。


トルクの掛かるプーリーには、なるべく多くの歯数がかかるようにします。必要に応じて、ベアリング入りのテンションローラーを配置します。
テンションローラーは歯面に配置することも出来ます。
完全同期にはなりませんが、ベルト背面の駆動力も使用できます(上図:背面駆動プーリー)
ベルトをクリップ部材で挟むことで、プリンターヘッドのような直線運動を利用することができます。
ベルト長さ計算は、ベルト長計算プログラムにより計算することができます(平ベルト/チェーンも計算可)。
このプログラムは、最大40個までのプーリーに掛かるベルト長さを計算するだけでなく、指定するベルト長に合うように、指定するプーリーの新しい位置を逆算する機能が備わっています。






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