機械CADの図面作成法

CADが普及して、入門書も数多く出版されています。しかし、円の描き方、線の描き方については詳しく解説されていますが、もっと基本的なノウ・ハウ、「CADを使って設計するプロセス」を解説してくれる例は少ないようです(少ないというより見たことがありません)
これはどうも専門的な学校でも同様で、ネジの製図法は教えてくれますが、多数の部品から構成される実際の製品をどうやって図面に反映していくかは教えてはくれないようです。


手書き製図の技法
CADがまだ普及していなかった頃の設計室には大型の製図台があり、ドラフターと呼ばれる製図具の定規やコンパス、テンプレートなどを使って図面が書かれていました。製図板はマグネットボードになっていて、ステンレス帯で方眼紙を固定します。

オリジナル設計図は、白地に薄青色線が入ったA1やA0方眼紙に引きます。正面、側面、平面図をこの1枚の紙面に、0.2mmシャープペンシルで作図してゆきます。画層(レイヤー)は無論ありませんから、装置設計図であれば、手前のカバーから内部の全部品、後面のカバーに至るまで、何百点であろうがすべての部品を重ね書きしてゆきます。必要であれば、ネジやハーネスの引き回しも描きます。

こうして、作図されたオリジナル図面はレイアウト図面と呼ばれ、このレイアウト図をもとに部品図を作図しますが、この作業はバラシと呼ばれます。設計者が手書きで描く部品図には寸法や注記も入れられ、これをトレーサーが半透明のトレーシングペーパーに製図します。部分組みの結合図や、総組立図も同様にトレぺに製図されます。トレペが使われた最大の理由は青焼きと呼ばれるジアゾ式複写機が使えたからです。(A2以上の図面は今日でも青焼きが健在です)

ところで、設計者は独自の方法でレイアウト図面に奥行きを表していました。例えば奥側の部品を表す外形線は、手前側の部品の外形線と交わる位置で僅かばかり破断したり、線に若干の濃淡差を付けたりすることで、図面に立体感が与えられ、相当込み合った設計図であろうと、容易に前後関係を把握することができたのです。無論、こんな図法はJISにもISOにもありません。必要に迫られた設計者の技法です。


CAD製図と、その問題点
製図にCADが使われるようになって、従来の製図手法と最も大きく異なったのは画層(レイヤー)の扱いです。CADにとってレイヤーを取り扱うことは簡単なので、当初からこの機能は取り込まれたのですが、その使い方の規格はありませんでした。
あるCADメーカーが示したレイヤーの使用例は、次のようなものです。

 レイヤー1:部品の外形線
 レイヤー2:寸法線、寸法補助線
 レイヤー3:表記文字
 レイヤー4:表題欄の枠

この使い方は、現在でも普及している方法のひとつですが、CADの特性を生かしてないばかりか、レイアウト図にこの方法を使ってしまうと、重ね書きされた複数の部品図をバラすことさえできなくなってしまいます。手書きでは使えた部品の前後関係を表す技法は、無論CADには通用しないからです。

では、CADを使って製図する場合、レイヤーの取り扱いはどうしたら良いのでしょうか? 以下はその一つの解決法です。


CAD製図

図面の種類
 図面は大きく分けると 「レイアウト図面」 「部品図面」 「組立図面」 の3種に分かれます。

レイアウト図面(配置図)
全部品を設計空間に配置したオリジナル図面をレイアウト図面といいます。

レイアウト図面は基本的には1/1の尺度で、1レイヤーに1部品を三面図で配置します。但し、購入部品は判別できる限り、1レイヤーに複数部品を配置しても構いません。

寸法線は記入しませんが、メモデータは小さい文字(1×1mm程度)で記入します。
レイヤー数が255だとすれば
  レイヤー1〜240:  加工部品
  レイヤー241〜245: 機械購入部品
  レイヤー246〜250: 電気購入部品
  レイヤー251〜255: 可動部参考図
のように決めておいたほうが便利です。
座標に対して斜めに配置されている部品も、正面、平面、側面図上に作図します。


部品図 必ずレイアウト図から図形をコピーして部品図を起こします。直接部品図の図形を変更することは厳禁です。必ずレイアウト図の変更の後で部品図を変更します。

部品図は、図番に対応した順に作図します。1レイヤーに1部品図を作成します。

最終レイヤーに、A4,A3,A2等の図枠レイヤーを他図からコピーして来ます。

部品図レイヤーをアクティブにして、図面寸法に合った図枠レイヤーを重ね表示して作業します。

レイアウト図の座標で斜めに配置された部品は、部品図で適切な角度に変換します。

縮尺、部分破断図、等も必要に応じて変更します。

寸法、注記、図番、注記等を部品図のレイヤーに記入します。

印刷する時は、部品図レイヤーと図面枠レイヤーを重ねて印刷します。



作図線色 線色は他CADとのデータ互換性を考え、白(黒)、赤、緑、青、水色、ピンク、黄色のみを
使います。背景色を黒または白にしますので実質7色です。

赤と青は図形には使用せず特殊用途に使います。
 赤: レイアウト図を修正中に、変更部品を示すために長く赤ラインでマーキングを付けます。
    部品図の図面訂正が完了したらレイアウト図の赤ラインを消去します。全画面「赤色のみ表示」で
    なにも表示されなくなったら、作業完了です。
    部品図中、不要または中止になったことを示す取り消し線、2重取り消し線も赤です。
 青:部品を移動や回転した参考位置を示す場合、この図形は青で描写します。



ファイル名
機種名が XYZ なら
  レイアウト図ファイル: XYZ.dxf
  部品図ファイル名: 
              XYZ_031_050.dxf   : 機械系部分組図 (カシメ/圧入加工図)
              XYZ_051_099.dxf   : 電気系部分組図 (基板/ハーネス部品)
              XYZ_101_900.dxf   : 部品図 (溶接加工を含む)
  組図系ファイル:
              XYZ_ASY.dxf      : 組立図
              XYZ_CON.dxf     : 回路接続図
のように統一します。間違えてファイルを異なったフォルダに落としてしまった場合も探し出せるように、面倒でもファイル名に機種名を入れておくことは大切です。

なお、基板回路図やプログラムは機械系図面ではないので別フォルダで管理しますが、ファイル名は同様に機種名で始まる名称にします。なお、ファイル名は日本以外でも文字化けしないよう半角を使います。


PDF図面、DXF図面
使用するCADが異なっていたり、CADをインストールしていない人に、CADデータファイルを送っても、受けた人は図面を開くことができません。図面データを扱えるもっとも一般的な形式は、PDFファイルです。PDFならAcrobat Readerで誰もが開くことができます。PDFファイルはフリーのPrimoPDFを使って作ることができます。
PrimoPDF

相手先にCADがある場合は、データをDXF形式に変換してから送ります。ほとんどのCADは、ファイル→名前を付けて保存 で、DXFを指定してファイルに変換することができる筈です。ただし、注意が必要で、円、円弧、直線などの基本的な図形要素はほとんど問題なく送ることができますが、レイヤの認識や座標原点位置は移動してしまう場合があるようです。また、文字や線色などの副次データは、まず正確には伝わらないと考えたほうが無難です。



●レイアウト図の作図例
レイヤー0に 正面図原点(0,0) 平面図原点(0,Y)、側面図原点(X,0)と座標軸線を作図します。
XとYは必ず同じ値を使います。平面図原点(0,1000)、側面図原点(1000,0)のような値です。
下の図はX、Y=100とした例です。

      【図1】 レイヤー0  正面図、側面図、平面図の座標

 
座標原点付近に正面図を作図し、右側に側面図、原点の上方に平面図を作成します。
原点は、特定の部品の存在に頼らないほうがいいでしょう。(装置自体の大きさが途中で変更になることもありますから)

装置は0、0のおおよそ中央に配置します。ある部品の正面図をかいたら、右側面図の原点から必要な位置に側面図を描きます。すると上の平面図は自動的に決まってきます

つまり正面図から上に無限垂線で補助線をいれ、右側面図の部品図を(0,0)を回転中心として反時計方向に90°回転コピーして、この水平補助線を描けば、交点に平面図の座標が現れます。

平面図を基に側面図を描く場合も同様です。

なお、ある部品が座標に対して斜めに配置されていても、レイアウト図面は側面図ないし平面図に落とします。この規則を破るとややこしい図面が出来上がってしまいます。
  
  【図2】 レイヤー1  部品1の側面図を回転コピーし、平面図位置を求める


 【図3】 レイヤー2に軸部材(白)を作図、 レイヤー3にアングル部材(青)を作図
    下図はレイヤー1〜3を合わせて表示しています。

 このように、レイアウト図面の各レイヤーに全部品を作画します。



●レイアウト図の例

上は加工部品点数180点程の装置の全レイヤを表示した状態の実例です。



●部品図は個別部品の必要寸法と、図番を記入した図面です。
レイアウト図面とは別のファイルを作成しますが、図形はレイアウト図からコピーして作成します。図面枠に合うように位置を決め、必要なら縮尺を変えたり、作図方向を変換して加工者が理解しやすい図面にします。

図面枠は最終レイヤー以降にA4枠、A3枠、、のように配置します。印刷の際は部品レイヤーと図枠レイヤーを重ねて出力します。

 【図4】 部品図ファイルのレイヤー3を作図 (図面枠レイヤー99も表示した状態)


なお、右端に見えているのは図面枠レイヤーの印刷領域外にある設計補助データです。各種Eリング軸の寸法許容差や、訂番の三角記号、その他慣用表記です。必要箇所を図中にコピーして使います。



図面訂正
レイアウト図の訂正前に、日付入りファイル名に変更したコピーをセーブします。例)XYZ_0110820.dxf
訂正したレイアウト図のレイヤーの図形付近に赤ラインを追加します。

変更する部品図は旧図を、A4なら500mm左側に移動またはコピーします。既にそれ以前の旧図が印字範囲外にある場合は、旧図全体を500mm上に移動しておきます。

印字範囲にある正式な図面を訂正し訂番を進めます。(リストの訂番も更新します)
部品図の訂正が終了したらレイアウト図の赤ラインを消します。

  【図5】訂正図と旧図




図面の言語
加工先は国内に限定されないので英表記の方が適しています。
ただし、韓国、台湾、中国ではおおよその漢字表記が通用しますので、カナが混じらない漢字での表記が通用します。英表記との併用が望ましい場合もあります。

 漢字表記例)
  寸法許容差、寸法基準、図面、対向面同加工、M4深8、溶接、E溝、塗装、
なお、見本図面枠は製図入門に添付してあります。



二次元CADと三次元CAD
CADには、二次元CADと三次元CADがあります。二次元CADは製図作業を補助するのが主目的ですが、三次元CADの主目的は製図ではなく、立体感が要求されるデザインを取り扱う場合が中心となります。例えば建築物や車体の形状を評価する際は、平面デザイン画より、縮尺模型の方がより詳細な評価を加えることができますが、3D CADなら更に高度な評価を加えることが容易にできるでしょう。意匠ばかりでなく、流体力学や構造力学の評価も3D CADの範疇です。









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